王都地下の留守番鉱山

ベルクが所有する鉱山は、王都の真下にある。

正確には、古い下水路のさらに下だ。泥に混じった魔銀を、掃除スライムが舐め取って育つ。十分に重くなると自動秤へ転がり、くしゃみをして銀粒だけを吐き出す。銀粒は市の再資源化局が買い取り、代金がベルクへ振り込まれる。

彼は週に一度、スライムへ石鹸水を与える。それ以外は地上の小さな家で暮らしている。

かつては下水保全課の主任だった。焦茶色の防水服は膝が裂け、胸の市章は汚水で読めない。人手不足を理由に十二連勤し、食事中も入浴中も緊急管が鳴った。辞職したあとまで未読の警報が増え、ついには「便所逆流・至急」という文字を夢に見るようになった。

今では、昼風呂に入っても誰も呼び出さない。

念のため浴室の戸へ「作業中」と札を掛ける癖だけは残ったが、最近その裏に「休業中」と書き直した。何から休むのかは、自分だけ分かればよかった。

湯船へ浸かろうとしたとき、浴室の会計鏡に文字が浮かんだ。

《再生魔銀、定期回収完了。家賃・浴場水道料、二月分を受領》

大邸宅を買える額ではない。だが、お湯が冷めるまで職場へ走らなくていい額だった。

そこへ、壁の旧緊急管がぼこぼこと鳴った。元課長コルベンの声が排水口から響く。

『ベルク! 中央広場の主管が詰まった! 図面を覚えているのはお前だけだ。すぐ来い!』

「図面は保全課の棚、青い筒の中です」

『誰も見つけられん!』

「棚を探すところから仕事です」

『祭りの日だぞ。広場が大惨事になる』

ベルクは片足を湯へ入れた。ちょうどよい温度だった。

「私の休日も、いつも大惨事にされました」

『特別手当を出す。今からなら間に合う』

「風呂には、もう間に合っています」

緊急管の弁を閉じ、さらに栓へ蜜蝋を詰める。コルベンの声は「責任」という言葉の途中で消えた。

地下では掃除スライムが勝手に泥を食べ、勝手に銀を吐いている。元職場の詰まりまで食べさせる契約ではない。

ベルクは濡れた手で未読札をまとめ、焚きつけ籠へ投げた。

それから肩まで湯に沈み、昼の鐘が二度鳴るまで、一本の指も動かさなかった。