球拾いの最後
最後の大会前日、野球部は日が沈むまで打撃練習を続けた。
私はマネージャーとして球を拾い、親友はスコアをつけていた。
私たちは同じ投手を好きだった。
そのことを知ってからも、仕事は変わらなかった。私は冷たいタオルを用意し、親友は投球数を数える。
練習が終わると、投手が私のところへ来た。
「頼みがある」
胸が跳ねた。
渡されたのは、小さなお守りだった。
「これ、あいつに渡してほしい」
視線の先に、親友がいた。
「自分で渡せば」
「明日、言うつもりだけど、その前に持っててほしい」
意味を聞かなくても分かった。
投手が好きなのは、親友だった。
私はお守りを握った。
布の角が手のひらへ食い込んだ。
「どうして私に頼むの」
声が少し震えた。
投手は困ったように笑った。
「一番信用できるから」
その言葉は嬉しくて、残酷だった。
私は親友のところへ歩いた。
夕暮れのグラウンドには、白い球がいくつか残っていた。
「忘れ物」
お守りを差し出す。
親友は受け取らず、私の顔を見た。
「誰から?」
「分かるでしょ」
「あなたは平気なの?」
同じ人を好きだと知っている目だった。
「仕事だから」
「それ、マネージャーの仕事じゃない」
親友の声が強くなった。
投手がこちらを見ている。
私は泣きたくなかった。
「受け取ってよ。明日、大会なんだから」
親友はようやくお守りを受け取った。
「ごめん」
「言わないで」
私は球拾いのかごを持ち、グラウンドへ戻った。
残った球を一つずつ拾った。
最後の一球を見つけたとき、涙が落ちて土へ消えた。
翌日の試合、投手は七回を投げ切った。
私たちは一点差で負けた。
試合後、親友はお守りを投手へ返そうとした。
「負けたから」
投手は首を振った。
「勝つためじゃなくて、持っててほしかった」
二人の間で、言葉が交わされた。
私は少し離れたところで冷たいタオルを配った。
最後に投手へ渡すと、「ありがとう」と言われた。
その一言に、昨日と同じ痛みがあった。
帰りのバスで、親友は私の隣に座った。
「付き合うことになった」
私は窓の外を見た。
「そっか」
「席、変わる?」
「変わらない」
親友は泣いた。
私は泣かなかった。
グラウンドへ置いてきた最後の一球に、もう十分な涙を落としてきたからだ。