瓶の底の小さな鉄

王都の菓子問屋では、胡桃が一月で油臭くなった。

商人ハザルは仕入れ担当の大庭志乃を見下ろす。

「北国産を買えと言ったのはお前だ。金貨百枚分、全部返品できなければ奴隷落ちだ」

仕入れ時には甘く、粒も大きかった。ところが王都の暖かい倉へ移すと、瓶を閉めても味が落ちる。

ハザルは自分が安い薄蓋を選んだことを隠し、異世界人の志乃へ責任を押しつけた。すでに奴隷商まで査定室へ呼んでいる。

元包装資材メーカーの志乃は、胡桃ではなく鍛冶場の床を見た。

細かな鉄粉をふるい、塩を少し混ぜ、二重にした小さな紙袋へ封じる。粉が漏れないことを白布の上で振って確かめ、胡桃と触れないよう瓶の底の窪みへ固定した。最後に厚い蓋を締め、縁を蝋で閉じる。

「鉄を食わせるのか」

「食べさせるのは、瓶の中の空気です」

それ以上は説明せず、同じ胡桃を二つの瓶へ分けた。

片方には小袋、片方には何も入れない。

三十日後、商人組合と奴隷商を集めた公開査定。

ハザルは、志乃が瓶をすり替えたと言えないよう、棚から無作為に番号を選ばせた。

普通の瓶を開けると、古い油と絵具のような臭いがした。表面も黄色く、噛んだ鑑定人はすぐ吐き出す。

小袋入りの瓶は、殻を割った時の甘い香りを保っていた。実は淡い色のまま、歯を当てれば軽く砕ける。

ハザルは疑い、別の瓶を選んだ。奴隷商自身が鍵を開け、十本を選ぶ。十本すべて同じだった。

さらに志乃は、胡桃油を塗った白紙を二枚出す。空気に置いた紙は黄ばんで臭うが、小袋と封じた紙は白いまま。

廃棄率は前年の四割からゼロ。小袋一つの費用は銅貨半枚で、胡桃一瓶は銀貨三枚。

査定人が数字を読み上げるたび、奴隷商の申請書は机の端へ追いやられた。

最後には、ハザルが選んだ薄蓋による損失まで帳簿に追記される。責任の欄から志乃の名が消え、ハザルの名へ書き換わった。

王宮菓子長が胡桃を一粒食べ、注文板へ印を押す。

「冬至菓子用に二百瓶。鉄袋も込みで納めよ」

ハザルは志乃の借金証文を破り、問屋の品質管理札を差し出した。

「北国へ追加発注だ。次は千瓶、お前の方法で封じる」