発掘隊は触るなと書いてあった

古代城の発掘責任者エルドナは、入口に三枚も札を立てていた。

《壁の巨人に触るな》

《胸の印を押すな》

《特にモルガドを起こすな》

それでも王都から来た監督官は、印を押した。

城壁そのものが立ち上がった。石の巨人モルガドは千年分の土を振り落とし、発掘隊を侵入者と判定する。監督官たちは逃げたが、エルドナだけは壁際に残り、手帳へ文字を書いていた。

「観察距離が近すぎます!」

助手が叫ぶ。

「起動時の瞳孔を記録できる機会は一度よ」

モルガドが腕を振った。背中だった城壁が崩れ、塔と石像がエルドナへ落ちる。地面が揺れ、古代の埃が発掘区を覆った。

巨人は次の侵入者へ顔を向けかけ、停止した。

埃の中から、筆記具が紙を擦る音がする。

さらさら、さらさら。

石の聴覚器官は誤作動しない。対象の生命音も、崩落前と同じ位置にあった。

埃が晴れる。

エルドナは同じ姿勢で立っていた。左手に手帳、右手に鉛筆。落ちた塔は彼女の頭上で輪切りになり、薄い石板として周囲へ積み重なっている。

助手が測定器を向けると、魔力反応は零、生命反応は平常と出た。エルドナは自分の無傷より、石板の切断面へ興奮して寸法を測り始める。逃げた監督官は物陰から「守護具を隠した」と叫んだが、彼が押した起動印だけが赤く光り、責任の所在を主張していた。

手帳の余白には、すでに「耐衝撃性は被験者側が上」と書かれていた。エルドナにとって巨人は脅威より先に資料だった。

「なるほど。攻撃後、十二秒だけ右目が狭くなる」

モルガドの瞳が赤くなった。

巨人は城門を粉砕した右拳を引き、古代文字を発光させる。二撃目は山脈破砕用の出力だった。

拳が落ち、発掘区が陥没する。石煙が空を隠した。

エルドナは同じ姿勢で、今度は頁をめくっていた。拳は頭上で止まり、表面の古代文字だけが衝撃に耐えられず剥がれている。

彼女は巨人を見上げた。

「もう一度お願いします。左目も確認します」

侵入者を恐れる機能など持たないはずのモルガドが、石の足を一歩退いた。