白い血統石

竜灯夜会で、王太子ガウゼルは婚約者の血を呪った。

「クシェナ・イストラ。君は竜血の災厄を隠していた」

 彼の隣でパヴィーヌが、恐ろしげにクシェナを見る。

「お二人の子が生まれれば王都が焼けると、古文書にありました。どうか殿下を自由にして差し上げて」

「王家へ呪われた血を入れる女とは婚約を破棄する」

 クシェナは、首飾りの下にある小さな鱗形の痣へ触れた。幼いころから不吉と呼ばれた印だ。

「告発は、わたくしの竜血が災厄を招くという一点ですね」

「否定できまい」

「血統石をお使いください」

 夜会の賓客、竜侯ゼファードが一人だけ前へ出た。人の王より古い家系を持つ男は、掌に白い石を載せる。

 血統石は、竜血に宿る契約の性質を色で示す。守護なら金、破壊なら黒、偽りなら灰。

 クシェナが指先を触れる。

 石は、朝日のような金に染まった。

「守護竜の系譜だ」とゼファードが言う。「都市を焼く血ではない。王都が危機に陥ったとき、一度だけ炎を防ぐ血だ」

 ガウゼルは言葉を失い、証拠を消そうと石を奪った。その指が触れた瞬間、金の端から黒い筋が走る。

 血統石は、触れた者の竜血契約を読む。黒は、破壊の契約。

 パヴィーヌが息を呑み、王太子の腕から離れた。ガウゼルは石を握り潰そうとしたが、黒い光は指の隙間から漏れ、袖を這い上がる。

「国を守るための契約だ」と彼は言った。誰も、その黒を守護の色とは呼ばなかった。

 クシェナは白から金へ戻る石を見た。呪われていたのは、自分の血ではない。そう知れただけで、胸の奥にあった鎖が外れた。幼い日に隠すよう命じられた痣を、彼女は初めて夜会の光へさらした。誰も焼けず、むしろ金の光が周囲を暖めた。

「クシェナ、守護の血ならなおさら王家に必要だ。婚約破棄は撤回する」

「必要だから妻にする方に、必要でなくなった日のわたくしは預けられません」

 ゼファードが手を差し出す。

「竜領では、その痣を災厄ではなく盾と呼ぶ。来るか」

 クシェナはガウゼルに背を向け、金色に照らされた手を取った。