白湯だけでいい

瑞埜さんは、祖母に薬ではなく白湯を飲ませる。

「身体は本来、自分で治る力を持っている」と語る動画は人気で、撮影助手の私は、介護にまで自然体を貫く彼女を尊敬していた。

撮影前、祖母の体重を量るのが私の役目だった。減っているほど瑞埜さんは「むくみが抜けた」と喜ぶ。祖母が咳をするとマイクを切り、白湯の湯気だけを長く撮った。苦しそうな声は視聴者を不安にするからだ。

コメント欄には時々、医療職らしい人から薬を中断する危険性が書かれた。私は指示どおり削除した。批判に反応すると祖母まで傷つく。画面では、祖母もいつも穏やかにうなずいていた。ブランドからは〈奇跡の介護〉シリーズの契約が来ていた。祖母の体調が安定すれば企画は終わる。そんな計算を口にしない瑞埜さんこそ、本物の家族思いだと私は感じていた。祖母の顔色が悪い日は照明を暖色へ変えた。元気に見せるのも、希望を届ける仕事だと思った。

ただし撮影が止まると、祖母は私の袖を引き、「青い袋」と繰り返した。瑞埜さんは認知症の言葉だと言い、棚の上段にある袋を見せなかった。

ある夜、祖母が倒れた。救急隊へ渡す物を探し、私は青い袋を開けた。中には心臓の薬と、主治医からの「自己判断で中止しないこと」という紙が入っていた。処方日は三か月前。錠数は一つも減っていない。

瑞埜さんは、祖母が自分で拒んだと言った。けれど未公開動画には、祖母が薬を求め、彼女がカメラの外で「自然に治したいって言ったよね」と何度も答えを言い直させる声が残っていた。

私は何も知らなかった。そう訴えると、救急隊員は私の編集履歴を見た。祖母の「薬」という声だけを切り取ったのも、医師のコメントを消したのも私だった。

搬送後、瑞埜さんは泣きながらライブ配信を始めた。献身的な孫を責める人々から祖母を守るためだという。

私はパソコンを閉じようとして、予約投稿に気づいた。

〈祖母が教えてくれた、最期のデトックス〉

公開時刻は、祖母がまだ救急車の中で息をしている今夜九時に設定されていた。