百年王妃の夕餐

王妃ヴェルダは、百年目の夕餐にも一人で現れた。

若い摂政ナハトは、彼女の向かいに座る。先王も、その息子も、その孫も老いて死んだのに、王妃だけは二十歳の姿を保っている。民は彼女を国母と呼び、摂政より信じていた。

「長い務め、お疲れでしょう」

ナハトが紫水晶の杯へ酒を注いだ。混ぜたのは〈歳月喰い〉。触れた者から残りの寿命を百年奪うため、不死者であっても時の果てまで朽ちるはずだ。

ヴェルダは香りを確かめ、飲んだ。

壁の肖像画が一枚ずつ色褪せる。燭台が錆び、卓上の花が種へ戻って崩れた。毒が時を吸っている証拠だ。

ナハトは彼女の髪に白が混じる瞬間を待った。

何も起こらない。

王妃は同じ姿勢でナイフを置き、スープを一口飲んだ。彼女の背後に立つ老侍従だけが、半世紀前にも同じ毒を見たことを思い出し、震える手で胸に礼をした。

「塩が足りませんね」

摂政の手から匙が落ちた。杯の周囲だけ卓が百年分朽ち、穴が開いている。毒は発動している。それでも彼女の指一本、老いていない。

「なら、時間ごと消えていただく」

ナハトは隠していた砂時計を割った。王宮禁術〈千年葬〉。対象の時間を千年先へ飛ばし、肉体も記憶も塵にする。光と灰色の煙が食堂を覆い、壁時計の針が狂ったように回った。

煙が晴れる。

食堂の外では、千年分の風化を受けた回廊が崩れている。その中心でヴェルダは同じ姿勢で座っていた。スープから上る湯気の形まで変わっていない。

「私が若いのは、寿命が長いからではありません」

彼女は歳月喰いの杯をナハト側へ押し戻した。

「固有権能〈今日〉。私にとって存在できる時間は、常に今日だけ。明日へ老いることも、千年先へ送られることもないのです」

扉の外では、毒の証拠を見た近衛たちが摂政の命令書を破り、王妃への忠誠を示す槍音を一度だけ鳴らした。肖像画の中で歴代の王たちが穏やかに見下ろす。ナハトは、彼女を過去の遺物だと思っていた。実際には、過去にも未来にも追放できない国の現在だった。

王妃が次の料理を促すと、摂政ナハトは一歩退いた。