砂の下の黄色い帯
道路脇の掘削は、夜間だけ許可されていた。
真壁珠緒の依頼は、朝までに雨水管を入れる溝を二十メートル掘ること。図面には既存の埋設管なし。試掘も入口側で終えている。
午前一時、油圧ショベルのバケットが砂をすくったとき、黄色い帯が一瞬だけ見えた。
「止めて!」
珠緒が手を上げる。運転手はバケットを空中で止めた。
「ただのゴミだろ。昔の養生テープだ」
珠緒は溝へ降りず、周囲へ矢板の状態を確認させた。土の縁が崩れやすくなっている。安全を取って階段から入り、黄色い帯の端を刷毛で追った。文字は泥で読めない。だが帯は道路と平行ではなく、斜めに横切っていた。
図面にないからといって、地中にないとは限らない。改修のたびに位置が変わり、記録が更新されない線もある。
珠緒は機械掘りを止め、帯の前後一メートルを手で試掘させた。三十分後、細い黒い管が現れた。見た目は古い。現場監督は「使ってないだろ」と言ったが、珠緒が耳を近づけると、微かな振動があった。
管理会社へ照会すると、近くの交差点にある信号制御用の通信管だった。十年前の道路改修で移設され、旧図面だけが施工会社へ渡っていた。
切断しても火も水も出ない。だから事故は静かに起きる。朝の交差点で信号が消え、そのとき初めて原因を探すことになる。
珠緒は雨水管のルートを五十センチずらし、交差部だけ人力で掘った。予定の二十メートルには届かず、十五メートルで夜間作業を終えた。
「五メートル残ったな」
監督が言う。
「信号は残りました」
埋設管を保護して仮復旧したころ、交差点の信号が朝の点滅から通常表示へ変わった。
作業員の一人が、止めた判断で残業が増えるとこぼした。珠緒は帯を切らずに掘り出し、文字が読める部分を見せた。そこには管理会社の古い名称と、まだ使われている回線番号が残っていた。
規制を外す車が動き出す。珠緒の端末には、更新された図面を作るための測量依頼が届いた。掘った溝は埋め戻しても、見つけた線は今度こそ地図へ残る。