社内アカウントの一枚

梶浦芙美は、会社の公式SNSを任されていた。

投稿前に三度確認する慎重さを買われた仕事だったのに、日曜の夜、遠征先の金沢で間違えた。

劇場前の等身大パネルと並び、推し色のマフラーを巻いて笑う自分。その写真を個人アカウントへ載せたつもりが、会社の公式アカウントから公開していた。

《北陸支店からのお知らせ》の間に、《千秋楽、行ってきました!》が並ぶ。首には限定グッズ、手には大きなパンフレット。普段の芙美しか知らない取引先も見る場所だった。

三分で削除したが、月曜の朝には広報責任者から会議室へ呼ばれた。

削除後の夜、芙美は何度も検索画面を更新した。スクリーンショットが拡散されていないか、自分の名前と作品名が結びついていないか。舞台を楽しんだ記憶より、見つかった恐怖のほうが大きくなり、個人用に撮ったほかの写真まで消しかけた。

芙美は始末書を用意した。趣味を隠すため、写真の舞台については「私的なイベント」とだけ書いている。

責任者は、投稿先を誤った原因と再発防止を確認した。端末を分けること、予約投稿の権限を見直すこと。それから始末書の一文を赤ペンで囲んだ。

「舞台が好きなことは、事故の原因ではありません。アカウントの切替手順が曖昧だったことが原因です」

芙美は顔を上げた。

「写真を見た人に、変だと思われませんか」

「それは会社が判断することではないし、あなたが謝ることでもない」

責任者は削除後に届いた問い合わせも、個人名を伏せて処理していた。誰の趣味かを社内で広める必要はない、と言う。

守られてほっとした一方で、芙美は自分まで写真をなかったことにしていたと気づいた。公式から消すのは当然だ。でも、個人の記録まで消す必要はない。

昼休み、芙美は個人アカウントを開いた。これまでは俳優名も劇場名も書かず、風景だけ載せていた。

同じ写真を選び直す。

《金沢まで舞台遠征。千秋楽を観てきました》

会社の話は一文字も入れず、自分の休日として投稿した。公開ボタンを押したあと、推し色のマフラーを鞄の底ではなく、椅子の背へ掛けた。