社長の一行
提出前日の午後十一時、社長から一行だけ届いた。
〈エンディングを飛ばせるボタン、今から付けられない?〉
企画担当の御厨川柚葉は、会議室へ呼ばれた。エンディングは十二分。配信者から「長い」と言われたらしい。開発責任者は「ボタン表示を置くだけなら一時間」と答えた。
柚葉は画面を飛ばす位置を訊いた。誰も決めていなかった。ボタンを押した瞬間にタイトルへ戻す案が出る。彼女は終盤のセーブ地点を確認した。クリア記録は、最後の映像が終わった後に書かれる。途中で戻せば、利用者は未クリアのままになり、次回また最終戦から始まる。
「じゃあ、押したら先に保存する」
「回帰テストが必要です。保存中に電源を切った場合も見ます」
空気が重くなった。仕様凍結後の追加は、一見小さくても既存の流れ全体を揺らす。
柚葉は、映像そのものを止めるのではなく、すでに完成している早送り機能を呼ぶ案を出した。長押し中だけ四倍速にし、最後の保存地点は変えない。新しい画面遷移を作らず、既存の終了処理へ必ず通す。
UI担当が「長押しの表示なら全言語分が要る」と言う。柚葉は操作説明で使っている手の記号を流用し、文字を増やさなかった。さらに一度押しただけでは動かないようにした。涙で手が触れた人が、結末を誤って飛ばさないためだ。
午前二時、試作が入った。柚葉は最初のスタッフ名、物語の後日談、権利表記の三か所で長押しを始め、離した。どこでも通常速度へ戻る。最後まで押し続けてもクリア記録は残った。
社長は四倍速のスタッフ名を見て、「これでいい」と言った。柚葉は権利表記だけ速度を戻す設定にした。飛ばせない契約になっていた。
柚葉は操作説明を見ない人のため、初回だけ画面の隅で手の記号を二秒光らせた。二回目からは物語を邪魔しない。表示の有無で保存結果が変わらないことも確かめた。
午前四時、追加は確定した。社長から続けて二行目が届く。
〈最初のロゴも飛ばせる?〉
柚葉は時刻を見て、ロゴの後にしか初期化されない保存領域を開いた。
エンディングを短くした夜は、オープニングへ戻っていった。