空へ登る百本の瓜

修道院の中庭は狭く、瓜蔓が地面を埋め尽くしていた。

 雨のたび葉が泥へ貼りつき、実は片側から腐る。孤児百人の夏食にするはずが、収穫できたのは二十七本。院長は畑を広げる土地を求めたが、隣の侯爵家は井戸一つ分の代金を要求した。

 錦戸蒼士は、土地ではなく古い帆柱と縄を借りた。

「瓜を船へ乗せるの?」

 子どもたちが笑う中、蒼士は畝の両端に柱を立て、頭上へ横木を渡した。そこから縄を垂らし、伸びた蔓を一本ずつ上へ導く。

 地面を這わせる区画と、縄へ登らせる区画を同じ二十株で比べた。

「蔓は土から力を吸う。空へ上げれば枯れる」

 侯爵家の農園番キルダは断言した。蒼士は答えず、蔓をきつく縛らず、八の字にした布で支えた。

 二週間後、大雨が三日続いた。

 地這い区画の葉は泥で黒く、二十七本の実のうち十一本が接地面から柔らかくなった。空へ上げた蔓は風で葉が乾き、実は縄から吊られて土へ触れていない。

 収穫日の数は、地這い区画が食べられる実十六本。垂直区画は八十四本。曲がりも泥傷も少なく、籠へ同じ向きに並んだ。

 使った土地は両方とも十歩四方。しかし空へ登らせた区画では通路が空き、その下へ葉菜を二列植えられた。土地を買わずに、使える面積が増えたのだ。

 収穫にかかった時間も違う。地面の蔓をめくって探す区画は三人で一刻、吊った実は目の高さに並び、一人で半刻だった。子どもが泥の中へ膝をつかずに済み、傷んだ葉を踏むこともない。

 農園番は「味が薄い」と一本を割らせた。空中の瓜は、切り口から甘い香りを放ち、糖度石は地這いより二目盛り高い。泥水に浸からず根が傷まなかったため、最後まで葉が働いていた。

 傷んだ実を捨てる籠は、その日だけ空のままだった。

 市場の買付人は、傷物十六本と真っすぐな八十四本を見比べた。

「侯爵の土地は要らない。空のほうを借りよう」

 彼は修道院と夏季百本の買付契約を結び、蒼士へ次の畑五十株分の縄代を前払いした。