窓枠に積もる雪

 水留辻景介は、設計競技で最終案から外れた。

 雪国の交流施設を提案し、光と風の通り道を何度も計算した。選ばれた案を見れば、自分のものより人が集まりそうで、反論できないことがさらに悔しかった。

 景介は一人で北の町へ行き、古い山荘へ泊まった。

 部屋の窓は木枠が歪み、隙間から粉雪が細く入ってくる。

「設計者なら気になるでしょう」

 宿の主人が笑った。

「かなり」

「明日、手を貸して」

 翌朝、二人で窓を外した。

 景介は新しい枠へ交換すべきだと言ったが、主人は古い木へ薄い板を足し、隙間だけを埋める。

「全部替えた方が早いです」

「この窓から見た景色を覚えてる客がいる」

「性能は落ちます」

「だから直す。捨てないために」

 景介は鉋で板を削った。

 一度に削りすぎ、細い隙間がまたできる。主人は笑わず、別の木片を差し出した。

「足せばいい」

 設計図なら引き直す場面だった。現場では、削ったものを戻せなくても、別の材で埋められる。

 昼、窓を戻すと、まだ少し固かった。

 何度か開け閉めするうち、古い枠と新しい板が擦れ、ちょうどよい場所へ落ち着いた。

 硝子越しに雪原が見える。完璧な気密ではないが、粉雪は入らなくなった。

 主人はストーブで焼いた林檎を出した。

 芯を抜き、蜂蜜とシナモンを詰めたものだ。

 匙を入れると皮が割れ、甘酸っぱい湯気が上がる。

「交流施設、落ちたんです」

 景介が言う。

「それは残念」

「選ばれた案の方がよかった」

「なら、よい施設が建つね」

「僕には何も残らない」

 主人は窓枠を指した。

「今日の板は残る」

 景介は笑うしかなかった。

 大きな建物ではない。図面にも賞にもならない。けれどこの部屋で眠る次の人は、雪を被らず朝を迎えられる。

 帰る前、景介は窓を一度開けた。

 冷たい空気が入り、木と焼き林檎の匂いを動かす。

 閉めると、枠は小さく音を立てて収まった。

 列車の中で、落選案の図面を開く。

 使える考えを三つだけ別のノートへ写し、残りは閉じた。

 すべてを次へ運ばなくてもよい。

 指先には鉋屑の乾いた香りと、窓へ足した一枚の木の温度が残っていた。