竜炎で合格印を押す方法

昨日まで日本にいた門脇丈の冒険者登録試験は、赤竜の吐息に三秒耐えるというものだった。

もちろん本物の竜ではなく、鱗一枚から再現した試験用の炎だ。それでも鉄盾を溶かす威力があり、受験者は防御魔法でしのぐ。

丈が鑑定鏡へ立つと《魔力0》《耐性0》が並んだ。

「魔力ゼロ。三秒後には登録票より薄くなっているだろうな」

試験官は笑いながら、丈へ紙の盾を渡した。侮辱のつもりらしい。

紙の盾には、過去の受験者が残した焦げた指跡がいくつもあった。試験官が弱者を笑うため、毎回同じものを使っているらしい。

丈には、妙な能力説明が見えていた。

《意味変換》

自分へ届く一つの出来事を、同じ強さを持つ別の意味へ一度だけ変える。

炎を冷気へ変えても、同じ強さなら凍る。風へ変えれば壁へ叩きつけられ、光へ変えれば目が潰れる。攻撃を治療へ変えれば、身体が耐えられないほど治されるかもしれない。考えた末、丈は紙の盾ではなく、未記入の冒険者証を胸の前へ掲げた。

試験官が装置を最大出力にする。

「開始!」

古代赤竜の幻影が口を開いた。

城門ほど太い炎が丈を飲み込む直前、彼は《意味変換》を使う。

――これは攻撃ではない。

――試験官が合格を証明するために押す、印だ。

轟音が消えた。

炎は一筋の赤い光へ縮み、丈の冒険者証へ落ちる。紙は燃えず、中央に竜の頭をかたどった真紅の紋章が刻まれた。

《赤竜王認証》

《防御試験・完全合格》

《推奨階級・測定規則外》

試験装置の幻影が勝手に片膝をつく。保管庫に眠る本物の赤竜の鱗まで壁を破って飛来し、丈の証へ重なった。

三秒を数える砂時計は、炎の余波だけで硝子が溶けている。丈本人には、髪一本焦げた跡がない。

「紙より薄くなるはずでは?」

丈が冒険者証を返しても、試験官は受け取れなかった。証に刻まれた竜眼が、彼を睨んでいたからだ。

奥の特等席で見ていた竜王国の大使が立ち上がる。彼は胸へ拳を当て、王族へしか行わない礼を丈へ向けた。

紙の盾は床に落ちていた。

拾おうとする者は、もう一人もいなかった。