署長は証拠を消す

新人巡査の廉田千尋は、資料室から署長の声を聞いた。

「今夜、証拠は全部消す」

係長が答える。

「金庫も開けますか」

「ああ。犯人は逃がせ。若い連中には直前まで言うな」

千尋は廊下で敬礼したまま固まった。

署長自ら証拠隠滅、金庫破り、犯人逃亡の指示。警察署の中に巨大な犯罪がある。

彼は同期二人を呼んだ。

「内部告発する」

「録音は?」

「ない」

「証人は?」

「壁と私」

「壁は法廷へ出せない」

「では今夜、現場を押さえる」

三人は署長へ探りを入れた。

「今夜、何か処分を?」

「大がかりにな」

「燃やす物は?」

「証拠写真、足跡、血痕」

「血痕まで?」

「水で落ちる」

同期が耳元でささやく。

「特殊薬品だ」

千尋もうなずく。

「犯罪の手口を知りすぎている」

係長にも尋ねた。

「犯人を逃がす理由は?」

「捕まる役ばかりではかわいそうだから」

「情実ですか」

「子どもに泣かれる」

「犯人に家族が?」

「百人くらい来る予定だ」

「組織犯罪!」

夜、署員たちは講堂へ集められた。中央には金庫、窓には赤い塗料、床には白い足跡。覆面姿の男までいる。

千尋たちは一斉に飛び出した。

「署長、そこまでです!」

署長は笛をくわえたまま目を丸くする。

「何が」

「証拠を消し、金庫を開け、犯人を逃がす計画です」

「そのとおりだが」

「認めましたね!」

講堂の扉が開き、小学生と保護者が列を作って入ってきた。

係長が看板を立てる。

〈夏休み警察体験 きみも名探偵〉

床の足跡と血痕は、子どもが証拠を探すための washable paint。金庫は暗証番号ゲーム。覆面男は逃走役の警察官だった。

署長が言う。

「最後に子どもたちが犯人を逃がすか、逮捕するか選ぶ。毎年、半分は逃がすんだ」

小学生が千尋を指さした。

「この人が本物の犯人?」

署長は考えてから答えた。

「勘違いの現行犯だ」

千尋は子どもたちに囲まれた。

「悪いお巡りさん、どうして証拠を隠したの?」

「盗み聞きを信じすぎたからです」

署長が笛を鳴らす。

「よし、その反省も防犯教材に追加しよう」

新人巡査三人は、そのまま悪役チームへ配属された。