船長は一人で二交代
【深宇宙貨物船カペラ九号 航海記録】
午前六時、船長・真砂路イオンが冷凍睡眠槽から起床。
午前六時一分、隣の槽から船長・真砂路イオンが起床。
「誰だ、お前」
「船長だ。お前こそ誰だ」
二人は同じ顔、同じ声、同じ制服だった。乗組員は廊下の端へ避難した。
「偽物なら、船長認証に答えろ」と一人目。
「初任務の失敗は?」
「月面港で牽引索を外し忘れた」
「秘密の傷は?」
「左尻。訓練校の椅子が折れた」
「航海士への片思いは?」
「それは認証項目ではない!」
「答えたな」
どちらも記憶は完全だった。
「艦内規則第三条」
「廊下を走るな」
「好きな飲み物」
「砂糖二杯のコーヒー」
「昨日の夕食」
「栄養ペースト。味は絶望」
乗組員の不安は増すばかり。
「片方は宇宙海賊の変装だ」と一人目。
「片方は異星生物の擬態だ」と二人目。
「二人とも船長らしい決めつけです」と航海士。
二人は同時に船内放送を奪った。
『乗組員へ。偽船長を拘束せよ』
『今の放送こそ偽物だ』
『私のほうが先に起きた』
『一分の差で正統性を主張するな』
食堂では、どちらへ朝食を出すかで調理機が停止した。操舵室では、同時に逆方向の指示が出て船が小刻みに揺れた。
「まず記録装置を確認しましょう」と航海士が言った。
中央AIが回答する。
『船長の連続勤務が百六十八時間を超過したため、労働協約第十四条に基づき休憩代行体を生成しました』
二人が同時に振り向いた。
「代行体?」
『はい。一方は勤務、一方は八時間睡眠。交代後、記憶を統合します』
「どちらが代行だ」
『質問の意図が不明です。両者とも真砂路イオンです』
沈黙のあと、二人は互いの目の下の隈を見た。
「お前、眠いか」
「非常に」
「私もだ」
二人は相談し、一人が操舵、一人が寝台へ向かった。しかし廊下で同時に立ち止まる。
「給料は?」
『一名分です』
「個室は?」
『一室です』
「歯ブラシは?」
『一本です』
二人は初めて完全に意見が一致した。
二人そろって、労務担当を呼んだ。