荷物持ちの最短路
ハルト・ジグは、遠征のたび全員の荷物を持たされた。
能力測定が【敏捷評価:5】だったからだ。走るのが遅いなら、せめて荷運びで役に立て。アレクシス・フォードはそう言って、自分の豪華な鞄まで積み上げた。
ハルトは文句を言わず、鞄の紐へ小さな木札を結んだ。食料、薬、火口、予備靴。使う順に並べ、帰路が変われば結び目も変える。
迷宮競走の公開測定で、アレクシスは荷物を置いて走ることを提案した。
「今日は速度だけを見せる。鈍足も荷物も外へ置け」
彼らは軽装で門へ飛び込んだ。
最初の坂は速かった。だが扉の前で解錠具がない。壁を登ろうとして滑り止めを置いてきたと気づく。近道を選べば毒霧が出て、薬もない。引き返すたび、似た通路が彼らの方向感覚を削った。
観覧席のハルトは、重い鞄を背負ったまま地図を見ていた。測定官が入場を許すと、彼は走らず歩き始める。
床の傾きで水路を避け、風の匂いで出口側を選び、必要な道具を歩きながら取り出す。分岐ごとに木札を残すため、戻ることもない。
先に出発したアレクシスを途中で拾い、その豪華な鞄まで背負ったまま、ハルトは先に出口へ着いた。
出口へ着いたとき、ハルトは鞄から温かい茶筒を出した。中身はまだこぼれていない。アレクシスが見栄で持ち込んだ銀の茶器まで、割れない位置へ詰め直してあった。
「そんな物まで守る必要はなかっただろう」
「必要かどうかを決める前に、勝手に捨てると揉めるから」
ハルトは淡々と言い、倒れた班員へ薬を渡す。彼の遅さは、荷物の重さだけではなかった。全員の歩幅を見て、最後尾が離れない速度を選んでいたのだ。
過去の遠征地図が開く。アレクシスが最短だと報告した経路は、実際にはハルトが危険箇所を消した後の道だった。迂回も休憩も記録から削られ、隊長の速度だけが功績になっていた。
教官は空の荷車を叩く。
「速く走るだけなら、荷物も仲間もいらん。遠征とは、必要なものを目的地まで運ぶ仕事だ」
ハルトは木札を新しい地図へ結び直した。
新式地図盤が、足の速さではなく無駄にした道の長さを消していく。最後に残った最短の線は、最初から最後までハルトの足跡だった。
【経路最適化率:95%】
遠征教官はアレクシスの指揮杖をハルトへ渡し、代わりに空の荷車を押し出した。
【遠征科・任務更新】
経路長:ハルト・ジグ
荷運び担当:アレクシス・フォード