落ち葉の切符

 浜村俊平は、路線バスの運転手をしている。

 秋の行楽期は渋滞が増え、乗客は時刻表を見てため息をつく。俊平は謝りながらハンドルを握り、窓の外の紅葉をほとんど見ないまま山道を往復した。

 休日、妻に連れ出され、近所の公園へ行った。

「紅葉狩りくらいしよう」

「毎日見てる」

「見てるんじゃなく、通過してるでしょう」

 公園の入口で、子どもたちが落ち葉を拾っていた。

 赤い楓、黄色い銀杏、茶色い桜。娘の子どもである孫が、俊平へ一枚差し出す。

「これは切符」

「どこ行き?」

「大きい木のベンチ」

「運賃は?」

「どんぐり二個」

 俊平は言われたとおり、どんぐりを二つ拾った。

 孫は落ち葉へ鉛筆で丸を描き、鋏の代わりに指で小さく折り目をつけた。

「はい、乗れます」

 三人で園路を歩く。俊平は無意識に腕時計を見た。

「次の発車は?」

「葉っぱが落ちたら」

 孫が答えた。

 風が吹くまで、しばらく待った。

 一本の楓から赤い葉が離れ、くるくる回りながら降りる。

「発車!」

 孫が走り出し、妻も笑って追った。

 俊平は少し遅れて歩いた。時刻表のない発車は、誰も置いていかなかった。

 大きい木のベンチで、妻が焼き芋を出した。

 新聞紙を開くと、甘い湯気が上がる。皮は黒く焦げ、中は濃い黄色だった。

 俊平は半分に割り、孫へ渡す。

「切符、回収します」

「記念に持って帰る」

「無効印を押さないと」

 孫は葉へどんぐりを押しつけ、丸い跡をつけた。

 帰り道、俊平は落ち葉を一枚拾った。

 バスの形に見える細長い葉だった。

 翌日の運転席へ、それを小さな透明袋に入れて置いた。

 渋滞で止まったとき、赤い山がフロント硝子の向こうに見えた。

 乗客の一人が「きれいですね」と言い、俊平はいつもの謝罪ではなく、「今日はよく色が出ています」と答えた。

 車内には暖房と、誰かが持ち込んだ焼き栗の香りがあった。

 遅れても、景色は逃げずに待っている。

 俊平は次の停留所へ向けてゆっくり発車し、運転席の葉の切符を、風で飛ばないようそっと押さえた。