落第庭師の春を予約する人々
魔法学院の庭師科で、トリスだけが卒業花を咲かせられなかった。
同級生の鉢には炎百合や歌う薔薇が開く中、彼の鉢は黒い土のまま。教師は「魔力のない者に庭は任せられない」と、温室の鍵を取り上げた。
退寮の荷造りをしていると、三人が裏庭へ来た。
王宮温室の管理官ヘレナは、金色の剪定鋏をトリスの道具箱へ入れた。
「春の庭を任せたい。花を切る判断まであなたに預ける」
冒険薬師リグルは、荷馬車の隣から薬草籠をどけた。
「遠征に来ないか。咲かない株を見捨てない人が必要なんだ」
妖精学者キュベラは、古い温室の扉に新しい鍵を差した。
「学院を出るなら、ここを研究室にしましょう。あなたの作業台は残してあるわ」
三つの誘いを前に、トリスは卒業鉢へ最後の魔力を注いだ。
ヘレナは彼の記録帳に残る毎朝の土温を評価し、リグルは枯れ株を捨てず挿し木にした手を見ていた。キュベラだけは、花が咲かない日にも温室へ話しかける声を知っていた。
それでもトリスは、咲かせて証明しなければ三人の親切も消えると思った。土の匂いさえ、試験場の冷気を思い出させた。
土が震え、小さな芽が出る。だが喜んだ直後、芽は茶色く縮み、周囲の花まで一斉に萎れた。
「やっぱり僕が庭を駄目にする」
トリスは剪定鋏と鍵を返そうとした。
「勧誘は忘れてください。皆さんの温室や薬草まで枯らす前に」
三人が散った。彼の予想どおり、離れていく背中。
ところがヘレナは井戸へ、リグルは堆肥置き場へ、キュベラは温室の天窓へ走ったのだ。
水を止め、土を掘り返し、遮光布を外す。
「根腐れじゃない」とヘレナが土を握る。
「地下の魔力管から眠り薬が漏れてる」とリグル。
キュベラは天井へ集まった小さな光を指した。
「あなたの芽が毒を吸い上げたから、周りの花が眠っただけ。守ったのよ」
茶色い芽の先が割れ、白い一輪がゆっくり開いた。
金の鋏は道具箱へ戻り、荷馬車の隣席には毛布が敷かれ、温室の鍵はトリスの首へ掛けられた。三人とも、花が完全に開くまで帰らない。
彼は進路を決められないまま、三冊の予定表に同じ文字を書いた。
――春、トリスのための場所を空けておく。