見えない竜を百万人で見る

「無彩竜は観測角が足りない。最低十二人必要」

「一人の視界だと完全透明」

「橘ほのか、矢一本で当てる気?」

橘ほのかは、白い洞窟の中央へ一本の矢を立てた。

無彩竜プリズムは、見る方向ごとに体の一部を別の位相へ逃がす。正面からは翼、横からは胴、上からは核が消える。十二方向から同時に観測して初めて全身が固定されるため、ソロ討伐は理論上不可能だった。

ほのかは以前、十二人目の観測役として参加し、矢を射る機会もないまま報酬対象外にされた。だから今回は、観測そのものに名前が残る仕組みを作った。

だが、ほのかの配信カメラは一台ではない。

彼女は事前に洞窟へ置いた十二個の小型カメラを、同じ配信へ接続した。映像は視聴者ごとに一つだけ割り当てられ、見えた輪郭を色付きコメントで送ってもらう仕組みだ。参加ボタンを押した者の名は、観測ログへ自動で残る。今度は誰一人、報酬の外へ置かない。

「右上カメラ、青い揺らぎ」

「床すれすれに尾がある。黄色」

「赤、中央より二メートル上に鼓動みたいな影!」

洞窟の風が逆巻く。

見えない爪が岩を裂き、ほのかの頬に細い傷をつけた。彼女の画面には、青、黄、赤、緑のコメントが流れ、その位置だけを拾った照準線が少しずつ竜の形を描いていく。

一人の目ではない。

百万人の画面が、十二方向を同時に見ていた。

「核の輪郭、揃った!」

「あと〇・三秒で位相固定」

「今!」

ほのかは弓を引き、一度だけ放った。

矢は何もない空間へ吸い込まれた。

次の瞬間、透明だった巨体が虹色に浮かび、胸の中心から光の亀裂を広げる。十二方向の観測が視聴者によって維持され、逃げる位相を失った核を、矢は正確に貫いていた。

竜が消えると、白い洞窟に矢だけが残った。

ほのかはカメラへ向かって深く頭を下げる。十二の映像窓には、最後まで色付きの輪郭が残っていた。

「撃ったのは私。でも、見つけたのはみんなです」

右上の数字が更新される。

【同時視聴者数:1,204,816/共同観測者数:1,204,816】