試し打ち台に弟子を置くな
鍛冶神殿の防具認定試験で、ザイネの背後には見習いのフェドが立たされた。
フェドは失敗作の兜を提出し、親方衆から笑われたばかりだった。縁は歪み、飾りもない。それでもザイネはその兜をかぶり、弟子を守る試験へ進んだ。
「防具職人なら、自作の鎧で耐えてみろ」
神殿長は新造の戦鎚を掲げた。実際にはザイネの工房を潰し、軍の注文を独占したいだけだ。試験台の床へフェドを鎖でつないだのも、逃げれば弟子が巻き込まれるようにするためだった。
フェドの兜が歪んでいるのは、飾りを付ける技術がないからではない。衝撃を正面で受けず、縁へ逃がすために左右をわざと違えていた。親方衆は見た目だけで失敗と決めたが、ザイネは設計紙を一目見て意図を理解した。だから今日、自分の頭で弟子の答えを証明する。
観覧席では、兜が何片に割れるか親方衆が賭けていた。フェドは鎖を鳴らし、『僕だけなら避けてください』と叫ぶ。ザイネは兜の縁を指で弾いた。『職人が、自分の品だけ試し台へ残して逃げられるか』。澄んだ音が一度響き、弟子の震えが止まった。
第一打《炉床砕き》。
雷を帯びた鎚がザイネの額へ落ち、火花と煙が神殿を満たした。神殿長は勝利を確信し、戦鎚を持ち上げようとして手首を押さえた。
鎚面が、わずかにへこんでいる。
ザイネの兜は薄い鉄だ。普通なら潰れて頭蓋へ食い込む。それなのに煙の向こうから、フェドの声がした。
「親方、顎紐が少し緩いです」
煙が晴れる。ザイネは両手を腰へ当てた同じ姿勢で立ち、フェドは背後から兜の紐を結び直していた。失敗作と呼ばれた兜には傷がない。鎚だけが、自分の力を受け止めきれず歪んでいた。
神殿長は観衆の視線に耐えられず、戦鎚の魔核を二段目まで解放した。
「防具に細工したな。なら鎧ごと魂を砕く!」
対魔王用の《神炉落とし》が振り下ろされる。床石が沈み、赤い煙が祭壇を隠す。ザイネは同じ姿勢のまま、背後の弟子へ言った。
「覚えておけ。良い防具は、着る者の価値を選ばない」
煙が晴れ、フェドの歪んだ兜まで無傷だった。神殿長がもう一度鎚を上げようと力を込める。
新造戦鎚は柄から砕けた。