贈与税五割
澤渡真宙は毎朝、恋人の那津へ寿命を一分贈る。《今日の分》という題名を付けると、那津から同じ一分が返ってくる。二人の残量は変わらない。手紙より短い時間を交換するのが、三年続いた習慣だった。
那津が余命二日と判定された夜、真宙は全残量を開いた。
三十二年。
「半分送る」
「だめ」
「二人で十六年ずつなら十分だろ」
寿命の贈与には五割の贈与税がかかり、受取人の元の残高から先に徴収される。それが唯一の規則だった。市場を通さない家族間移転が、資産隠しに使われないためだという。
一分の交換では、税も三十秒。互いに返すことで目立たなかった。誕生日にも、喧嘩の仲直りにも、一分ずつ交換した。銀行口座より確かな愛情残高だと、二人は笑っていた。
十六年を送れば、那津は税として八年を先払いしなければならない。
彼女の残りは二日しかない。
「じゃあ、四日送る」
税は二日。ぎりぎり払える。その後、那津には四日が入る。
真宙は金額を入力した。
《贈与寿命:四日》
《受取人税額:二日》
《決済しますか》
二人で計算した。那津の残り二日が税で消え、直後に四日が加わる。四日間、話せる。
確認を押す。
那津の端末が赤くなる。
《税額を先行徴収します》
二日。
一日。
一分。
ゼロ。
那津の瞳が閉じた。
《受取人の死亡を確認しました》
《贈与寿命を受領できません》
《四日は市場へ帰属します》
「待て」
真宙が取消しを押す。
《贈与者による確認後の取消しはできません》
真宙から四日が減ったまま、那津には一秒も届かなかった。
税の徴収と贈与の着金には、〇・八秒の処理差があった。残高が税額と同じ場合、受取人はその間に死亡する。
規約の注記には書かれていた。
翌朝、自動送信が作動する。
《今日の分:一分》
那津の口座は死亡済みのため、一分も市場へ移った。
真宙は習慣を止めようとしたが、相互契約だったため相手側の承認が必要だった。
毎朝一分ずつ、彼の寿命は死んだ那津へ送られ、届かずに売られていく。
返事の一分だけは、もう戻ってこなかった。