身長の欄を閉じる

火曜の午後十時、友梨はマッチングアプリの検索条件を一つずつ開いていた。

年齢は三歳上まで。居住地は隣県まで。休日はできれば土日。喫煙はしない。結婚への意思は二年以内。年収、学歴、身長にも選択欄があり、数字を入れるほど画面上の人数が減っていく。

三百八十二人。

年収の下限を上げると、百九十六人。

身長を百七十センチ以上にすると、七十一人。

さらに「初回デート費用は男性が多めに払う」を選ぶと、四十四人になった。

友梨はその数字を見て、安心するより疲れた。四十四人なら見切れる気がする。けれど、見切った先にいる誰かを想像すると、採用候補を絞り込む仕事のようだった。

今日は会社で、新卒採用の書類を百二十枚確認した。大学名、資格、志望動機。人を条件で分けることに一日使い、帰宅してからも同じように画面を操作している。

テーブルには、スーパーで買った鯖の塩焼きと、大根サラダがある。鯖は電子レンジで温めたのに、条件をいじっているうちに冷めた。レシートにはポイント残高が四千八百二十一と印字され、交換できる景品まであと百七十九ポイントだった。

身長の欄へ戻る。百六十九センチなら困る理由を考えてみたが、はっきりしたものはなかった。以前付き合った人が背の高い人だったことと、友人が「並んだときバランスいいよね」と言ったこと。それくらいだった。

友梨は条件を外した。表示人数が百二十八人へ増える。

次に年収の欄を開き、指を止めた。お金の不安を軽く見たいわけではない。結婚への希望も、喫煙しないことも、譲れないと思う。全部を勢いで消す必要はなかった。

そこで検索画面ごと閉じた。

今夜の疲れた頭で、将来の安心を数字へ変え続けても、正しくはならない。百二十八人を見始めるのも明日以降でいい。

友梨は冷めた鯖をそのまま食べた。骨が一本だけ残り、皿の端へ置く。条件を減らしたから妥協したのでも、残したから高望みなのでもない。今日は一つの欄を閉じ、それ以上自分を審査員にしないことにした。