透明なビニール傘

傘立てには、透明なビニール傘が一本だけ残っていた。

私が柄をつかんだのと、彼がつかんだのは同時だった。

「それ、私の」

「俺のだよ」

「持ち手に青い点がある」

「俺もつけた」

「どうして」

「同じ傘ばっかりだから」

「私も同じ理由」

青い油性ペンの点は、確かに一つだけだった。

外は滝のような雨。昇降口にはもう誰もいない。用務員さんが遠くから「早く帰れ」と声をかけた。

「じゃんけん?」

彼が言った。

「負けた人、どうするの」

「走る」

「風邪ひくよ」

「勝つから」

「私も勝つけど」

三回あいこになった。

四回目の前に雷が鳴り、私は思わず柄を離した。彼も驚いて手を緩め、傘が床に落ちた。

透明な生地の内側に、小さな星のシールが貼ってあった。

「私のじゃない」

「俺のでもない」

二人で顔を見合わせた。

誰か別の生徒の傘だった。私たちの傘は、きっと先に間違えて持っていかれている。

「どうする?」

「借りるしかない」

「一本を?」

「返すためにも、二人で見張ったほうがいい」

理屈になっているようで、なっていなかった。

相合い傘で校門を出た。透明だから互いの顔が見えすぎる。肩が触れるたび、どちらかが外へ寄り、そのたび反対側が濡れた。

「青い点、どの辺につけた?」

「持ち手の裏」

「俺は先端」

「じゃあ最初から違ったじゃん」

「見せる前に君が決めつけた」

「そっちも」

「似てるな、俺ら」

「傘だけでしょ」

駅前で雨が少し弱まった。

傘を閉じると、星のシールの横に細い字を見つけた。

〈二人で使ったら、次の雨の日に返してください〉

いたずらだと思った。でも日付は今日ではなく、二年前だった。

「代々、相合い傘?」

「学校の怪談より恥ずかしい」

「返さないと呪われるかも」

「じゃあ次も一緒に?」

彼が冗談らしく言い、私も冗談らしく「仕方ないね」と答えた。

翌朝、傘立てには青い点の傘が二本戻っていた。

星の傘を中央に置くと、透明な生地の向こうで彼と目が合った。外は晴れていたのに、次の雨を待ってしまう自分たちが可笑しかった。