金貨を無視する羅針盤

隊商長メイファの羅針盤は、北を指さなかった。

代わりに、最も金になる方角を指す。最初は便利だった。だが利益の匂いがするたび道を外れ、砂漠の盗賊市場や、崩落寸前の鉱山へ一行を導く。昨日は崖の向こうを示し続けた。隊商の仲間は彼女が儲けを独占しようとしていると疑い、荷車の鍵まで取り上げた。明朝、正しい北道を選べなければ隊商長の腕章も返さなければならない。羅針盤の蓋には、針を信じて越えた十二の峠の傷が刻まれていた。捨てれば済むのに、メイファは最後まで原因を知りたがった。

「次に迷えば、隊商を降ろされる」

修理店《北の針》のソルドは、卓上へ銅貨、銀貨、金貨を等間隔に置き、羅針盤を中央へ据えた。針は迷わず金貨を向く。

裏蓋を外すと、方位磁石の横に小さな黄金虫の殻が挟まっていた。富を探す護符だ。前の持ち主が追加したのだろう。殻が北磁石より強くなり、方角ではなく値段を読んでいた。

「外せば直る?」

「外すだけでは、針が何を信じればいいか忘れています」

ソルドは黄金虫を取り除き、夜空石を針の根元へはめた。昼でも星の位置を感じる石だ。さらに目盛りを一度すべて消し、実際の北へ合わせて刻み直す。

店内に金貨を積み、宝石箱まで隣へ置く。

羅針盤の針は一瞬も揺れず、壁の向こうの北を指した。

メイファが金貨を右へ動かす。針は無視。左へ動かしても無視。最後に彼女自身が向きを変えると、手の中で針だけが静かに北へ戻った。夜空石の青い粒が一つ瞬き、蓋を閉じても方角を見失わない。

「儲からない道でも?」

「道具は道を示します。儲けるかどうかを決めるのは、持ち主です」

メイファは笑って、一番古びた銀貨を代金として選んだ。

「これは最初の隊商で稼いだ金。近道をせず、七日かけて運んだ荷の分だ」

残りの金貨を袋へ戻し、羅針盤を首にかける。

「明日は北門から出る。初めて、針と喧嘩せずに済みそう」

彼女が去ったあとも、作業台の針は北を向いたまま。

やがて扉のベルが鳴り、南国の砂が敷居へこぼれた。