鉄の関節
最初の一撃を受けたとき、ゾルンの右手首が鉄になった。
観客席から歓声が上がる。
処刑闘技の勝者には、地下牢の家族一人を解放する権利がある。ゾルンの相手は王の剣闘士。長剣を両手で振るう大男だった。
ゾルンの武器《不屈》は、受け止めた攻撃を必ず弾く。その代わり、衝撃を受けた関節が鉄へ変わる。一度鉄になれば曲がらない。鉄は傷より厄介だった。痛みはいつか薄れるが、固まった関節は勝ったあとも残る。過去の使い手には、最後の構えのまま庭へ置かれ、鳥の止まり木になった者もいた。
二撃目を左肘で受ける。肘が固まり、腕は伸びたままになった。
三撃目。右肩。
剣を握る腕が一本の棒になる。ゾルンは身体ごと回転し、刃を相手へ叩きつけた。大男は避け、笑った。
「全部固まれば、立った棺だ」
地下牢の格子から、娘が見ていた。小さな両手で鉄棒を握り、「お父さん」と声を殺している。
四撃目は膝へ来た。ゾルンはあえて受けた。右膝が伸びたまま固定される。倒れそうになる身体を剣で支えた。
五撃目。左足首。
歩けない。だが大男は勝ちを確信し、正面から首を狙った。
ゾルンは動かない右脚を軸に、まだ曲がる腰だけで身を沈めた。長剣が頭上を過ぎる。彼は鉄になった左腕を相手の喉へ差し込み、棒のように押し上げた。
大男がよろめく。
最後の反撃が、ゾルンの胸を狙う。彼は剣で受けた。衝撃が両肩から背骨へ抜け、腰の関節まで冷たい金属へ変わった。
もう一歩も動けない。
それでも弾かれた敵の剣は空高く舞い、落ちて大男の胸を貫いた。
鐘が鳴る。勝者の名が叫ばれ、地下牢の扉が開いた。
娘が駆けてくる。
ゾルンは抱き上げようとした。鉄の肘も肩も動かない。膝をついて目線を合わせることもできない。
「お父さん?」
彼は笑った。顔だけはまだ人のままだった。
娘は動かない腕の間へ自分から入り、冷たい胸当てに頬を寄せた。
その日、牢から出たのは一人だった。
闘技場には、娘を抱く形にもなれないまま立ち尽くす、錆び始めた父親が残された。