鍵を掛けない客室

ソフィは、外から鍵を掛けられるのが怖かった。

保護という名目で塔へ閉じ込められた過去がある。

騎士団長ライネルの城塞へ来た夜、客室の扉には錠前がなかった。代わりに内側から押すだけの簡単な閂と、廊下へつながる呼び鈴がある。

「外鍵は外した」

ライネルはそれだけ言った。

彼は敵の間者を一晩中尋問しても顔色を変えず、部下へ私情を見せない。けれどソフィが扉の蝶番まで確かめる癖を、初日から覚えていた。

寝台の天蓋も片側だけ開いている。囲まれた布の中では眠れないと知っているからだ。

数日後、王都から護送官が来た。

「ソフィ嬢には、証人保護のため地下室へ移っていただく」

ソフィは首を振る。

「地下は嫌です。窓のある部屋に残ります」

護送官はため息をつく。

「狙われている自覚がないのですか。安全のためです」

ライネルが書類を見る。

「地下室は外鍵か」

「当然です」

「却下」

「騎士団長、王命です」

護送官は兵へ合図し、ソフィの腕を取ろうとした。ライネルは剣を抜かなかった。ただ一歩進み、誰も彼女へ届かない位置へ立つ。

「触れるな」

「本人が判断できる状態ではない」

ソフィは声を張る。

「判断できます。危険でも、鍵を掛けられるほうが嫌です」

ライネルは彼女へ尋ねた。

「ここに残るか」

「はい。護衛を増やすのは構いません。でも、扉は自分で開けたいです」

彼は頷いた。

「四名増員。外鍵なし」

護送官が「特別扱いだ」と吐き捨てる。

ライネルは短く答えた。

「そうだ」

その夜から廊下の護衛は倍になったが、誰も扉へ鍵を足さなかった。ライネル自身も入室前には必ず二度だけ扉を叩き、返事がなければ立ち去る。守ることと侵入しないことを、彼は同じ命令で徹底した。

そして王命書の移送欄へ、不許可の印を押した。

「安全を理由にソフィを監禁するな。扉を閉めるか開けるかは、彼女が決める」