鏡枠から抜いた四本の鋲

鏡職人ユードは目が見えない。

だからこそ、公爵夫人オルガナが持ち込んだ大鏡の中に、誰かが閉じ込められていると気づいた。磨くたび、ガラスの向こうで息を殺す音がする。

鏡魔族ラシェル。銀の額縁に所有銘板が打たれ、夫人の命令で政敵の部屋を映し続けていた。見たくない場面では目を閉じても鏡面は閉じられず、得た秘密を忘れることも禁じられている。

「修復後はあなたに譲るわ。銘板へ職人印を重ねれば、見えない目の代わりになる」

ユードは額縁を指でなぞった。

「彼女を外へ出す方法は」

「鏡を割れば中身も割れる。枠を外せば、次の所有者なしでは消えるわ」

夫人が帰ると、鏡の中から声がした。

『印を重ねて。あなたなら、悪い主ではなさそう』

「私には君の姿も、便利さも見えない」

『だからこそ、そう思うの』

「悪くない所有も、所有だ」

ユードは鏡面に触れず、銀枠の背面を外した。所有銘板は四本の鋲で留まっている。その鋲だけが鏡の影へ食い込んでいた。

彼は鋲の頭を削り、一つずつ抜く。

最後の鋲が落ちた瞬間、鏡から冷たい風が吹いた。ラシェルが人の姿で工房へ踏み出し、額縁の銀は黒く曇る。

「私は消えなかった」

「次の所有者が必要だというのは、枠を売るための嘘だったらしい」

ラシェルは笑い、壁の小鏡へ溶けて姿を消した。

数日後、公爵夫人は修復状況を確かめに来た。ユードが銘板を外したと知ると、彼を反逆者として捕らえる命令を出す。

その瞬間、工房中の鏡に同じ光景が映った。

夫人が政敵の寝室を覗き、偽の証拠を置く過去の姿。ラシェルが自分の記憶を、すべての鏡へ映していた。

衛兵たちは夫人の手を取った。

騒ぎが去ると、ラシェルはユードの隣へ戻る。彼には映像が見えない。それでも彼女は一つずつ何が映ったかを説明した。

「自由なら、もう隠れて暮らせる」

「ええ。でもあなたは、見えない私の声を最初に人として聞いた」

彼女は抜かれた四本の鋲をユードの掌へ載せ、自分の短い鏡杖をその横へ置いた。

「目の代わりではなく、証人として隣に立つ。見たいものは、相談して」

銀の銘板だけが、空になった額縁の下で裏返っていた。