鐘塔猫の尾に絡んだ鎖
町の時計が十三回鳴り、鐘塔猫が目を覚ました。
灰褐色の猫型魔獣が塔の外壁にしがみつき、尾を振るたび鐘が狂ったように響く。住民は「時を食う魔獣だ」と広場から逃げ、守備隊は大弩を屋根へ向けた。
鐘守ベアトは、歯車室から尾の動きを見ていた。
猫は鐘を鳴らしたいのではない。尾に巻きついた巻き上げ鎖を外そうともがき、そのたび重錘が跳ねて鐘を打っている。
三年前、時計を遅らせた罪で父を追放して以来、ベアトは誰より正確さを求められてきた。だが今は針を守るより、尾を守るほうが先だった。
「時計を止めます!」
守備隊長が「職務を捨てる気か」と叫ぶ。
「一分遅れるだけです。撃てば、この子の時間が終わる」
ベアトは主ぜんまいを外した。町中の時計が止まり、鐘塔猫の動きも一瞬静まる。
梁を伝って近づく。猫が牙を見せ、前足で木材を深く抉った。ベアトは腰紐を梁へ結び、自分の尾の代わりに垂らしてみせる。
「絡まると、怖いよね」
猫の耳がこちらを向く。
尾の毛へ鎖が何重にも食い込み、皮膚は紫色になっていた。鎖を切れば重錘が落ちる。ベアトは歯車へ楔を打ち、一環ずつ緩める。
十三回目の鐘の余韻が消えるころ、最後の輪が外れた。
血流が戻った痛みで猫が叫び、塔全体が傾く。守備隊が矢を放つより早く、ベアトは腫れた尾を両腕で包んだ。
「大丈夫。動く証拠だ」
冷たい布を巻くと、猫は荒い息を整えた。
やがて額の時計模様が光り、ベアトの掌へ針のない文字盤が刻まれる。止まった町の時計は一斉に動き出し、すべてが本来の正しい時刻を指した。父の時計だけが遅れていたのではなく、町の基準時計が進みすぎていたことまで明らかになる。
鐘塔猫は広場へ降り、戻ってきたベアトの父の前ではなく、彼女の前へ座った。そして腫れた尾を膝へ巻き、頭まで預ける。
煤の匂いがする毛は、古い振り子布より厚く柔らかい。時を刻むような喉音とともに重みが増し、その中心の温かさが、失われた三年を急がず埋めていった。