門扉の一本釘

石城ラドヴァンの正門は、一本の鉄釘で立っていた。

正確には、上の蝶番を留める最後の釘だ。ほかは投石の振動で抜け、木部も裂けている。大工頭ヨヴァン・ケルツがその一本を外せば、門扉は外へ倒れて橋を塞ぐ。残せば、朝の破城槌で内側へ倒れ、守兵を潰す。風は止んでいた。城内には新しい扉を作る木も、釘を打つ男も残っていなかった。

夜半、敵の将校が門前で交渉を求めた。

「日の出に開門しろ。職人とその家族は助ける」

ヨヴァンは狭間越しに釘を見せた。長さ一尺、頭に城主家の十字刻印。

「これを抜けば、今すぐ門が開く」

「なら抜け」

「先に退路を空けろ。門が外へ倒れれば、そちらの兵が下敷きになる」

敵将校は門を見上げた。嘘ではない。だがヨヴァンが釘を抜けば、本当に城は開く。相手にとっては罠ごと受ける価値がある。

「兵を十歩下げる。門が倒れたら入る」

「五十歩だ」

「二十」

「三十。女と子が脇門から出るまで、動くな」

「職人だけを助けると言った」

ヨヴァンは釘の頭を石へ打ちつけた。火花が一つ散った。

「では残す。朝、門は内側へ倒れる。最初に入る百人が潰れる」

将校の顔が歪む。攻城の先陣は彼の隊だ。城を取っても、死ねば手柄は他人のものになる。

「三十歩。半刻だけだ」

「それでいい」

敵兵が下がり、正門前に空白ができた。ヨヴァンは釘抜きを掛けた。

城主が背後へ来た。

「本当に倒すのか」

「倒せば、敵は脇門へ気づく」

「では」

ヨヴァンは太い釘を半分まで抜き、そこで止めた。代わりに頭を横へ曲げ、門扉の重みが外側へ掛かったときだけ折れるようにした。敵が朝、外から押せば門は敵側へ倒れ、橋を塞ぐ。今夜は立ったままだ。

「朝まで持つか」

「朝になれば、俺がここで見ています」

城主は礼を言わず、脇門へ向かった。職人の妻も、ヨヴァンの娘も列にいる。

門前の敵兵は三十歩先で待っている。誰も、石壁の陰にある小さな扉を見ていない。

半刻を告げる砂が落ち始めると、ラドヴァン城の脇門が開いた。