雨夜の句会
江戸の茶屋《笹舟》へ、三人の男が同じ合言葉を口にして入ってきた。
「雨の夜に、月を盗む」
一人は、密談を取り締まる同心の北叟清十郎。
一人は、荷の受け渡しに来た焙烙屋一家の若頭、万吉。
一人は、今夜ほんとうに金蔵へ入る盗人、稲妻小平。
女中のお鹿は、三人を二階の句会へ来た俳諧師だと思った。
「皆さん、同じお題ですね。まず月について語ってくださいな」
万吉は清十郎と小平を取引相手だと思う。
「月は包みの中だ。銀でできている」
小平は、盗む品の説明だと思う。
「重さは?」
「二十両ぶん」
清十郎は密輸銀の取引だと確信した。
「どこから手に入れた」
「川向こうの蔵だ」
「鍵は」と小平。
「お前が開ける手筈だろう」
「承知した」
お鹿が感心する。
「月、蔵、鍵。ずいぶん物騒な句になりそう」
清十郎は懐から十手を少し見せた。
「雨が上がる前に全員、白状してもらう」
「白い障子を入れるのね」とお鹿。
「白状だ」
「五文字に収まりませんよ」
万吉が清十郎へ顔を寄せる。
「役人を連れてきたのか」
「俺が役人だ」
「変装にしては堂々としているな」
「変装ではない」
小平は席を立った。
「では俺は先に蔵へ」
「待て」と清十郎。
「句がまだでしょう」とお鹿。
「句どころではない」
「皆さん最初から句の話をしていませんよ」
お鹿は短冊と筆を三組置いた。
「せっかくですから一句ずつ」
万吉は『銀包み 川の蔵から 夜の舟』。
小平は『鍵ひとつ 壁を越えれば 俺の月』。
清十郎は『御用なり 雨に濡れたる 二悪党』。
お鹿は腕を組んだ。
「最後の句だけ、急に結末ですね」
三人が一斉に黙る。
二階から老人たちが降りてきた。
「お鹿さん、句会の新入りはまだかね。今夜のお題は『雨の夜に月を盗む』だが」
お鹿は三人を指した。
「こちらの方々では?」
清十郎は万吉の包みを開く。中から銀の延べ棒が出た。小平の懐からは合鍵と縄。
老人がうなずく。
「見事にお題どおりだ」
清十郎は二人へ縄をかけた。
「季語は雨。落ちは御用だ」