雪の断頭台
雪の上で無実の者を斬ると、処刑人の身体が一か所ずつ氷になる。
アネトの左足は、三年前から透き通っていた。冤罪だと知りながら命令に従った代償である。冬以外は焼けるように痛み、冬には何も感じない。
今日の囚人は七歳の少女ヒルマ。井戸を凍らせた魔女として断頭台へ載せられた。だが村の井戸は、領主が死体を捨てたせいで腐っていた。ヒルマは水を凍らせ、病が広がるのを止めただけだ。
「執行すれば、お前のどこが凍るかな」
領主は毛皮の椅子で笑った。少女の小さな首には、斧の刃が大きすぎる。
アネトは雪を掬い、舌へ載せた。処刑前に雪が甘ければ有罪、苦ければ無実。古い処刑人だけが知る試しだ。
舌が裂けるほど苦かった。
「おじさん、寒い?」とヒルマが訊いた。
「少しな」
「私が凍らせたら、痛くなくなるよ」
少女の指が左足へ触れた。透き通った氷の中に血が一瞬だけ戻る。彼女の力なら、アネトの足を治せるのかもしれない。
だからこそ領主は殺したがっている。井戸の死体も、これまで斬った無実の者も、凍った肉から記憶を読み取られれば露見する。
アネトは斧を振り上げた。
領主が満足そうに頷く。
刃は少女の枷を断ち、そのまま雪面へ突き刺さった。アネトは氷の左足を自ら砕く。破片が空へ舞い、そこに閉じ込められていた三年前の囚人の記憶が映った。領主が判決を買う場面。兵が証拠を埋める場面。広場中の雪が鏡になり、罪を映し返す。
領主が逃げる。ヒルマは両手を広げ、門を氷で閉ざした。
兵たちは主を捕らえた。少女の縄が解かれ、群衆は井戸へ向かう。
アネトは雪の中へ倒れた。左足を失っただけではない。無実の記憶を解放した代償で、氷は腰から胸まで這い上がっていた。
「治すよ」とヒルマが泣く。
「だめだ。これは罰だから、残してくれ」
夜明け、断頭台の横には片膝をつく氷像が立っていた。胸から下は完全に透明で、その中を白い雪が血の代わりに巡っている。
春になっても像は溶けなかった。ただ少女が触れる時だけ、凍った唇がわずかに笑った。