雪国スープ店の消えない灯

ネネッタは北城の厨房で、夜明け前から鍋を洗っていた。

灰色の制服は袖が擦り切れ、熱湯の跡が白く残る。料理長から届く緊急札には、いつも「今すぐ」としか書かれていなかった。

城を辞め、雪原の街道沿いに小さなスープ店を持った。屋根は重い雪でたわみ、壁は吹雪のたびに鳴った。最初の冬、雪崩が店の半分を埋めた夜、ネネッタは布団の中で泣きながらも、外へ出なかった。

朝、雪は店の周囲だけ丸く退いていた。折れた梁は白樺の枝を取り込み、太くつながっている。消えたはずの暖炉も、煉瓦を自分で積み直し、火を灯していた。

大鍋には、仕込み箱から材料を量る小さな匙の精がいる。旅人が硬貨を入れると、一杯分のスープを注ぐ。売上は街道組合が自動で精算し、ネネッタの口座へ送った。

《本日十六杯。薪代、食費、家賃を確保》

そこへ城の料理長から通信が届く。

『晩餐会で洗い場が回らない。今夜だけ戻れ。命令だ』

「もう城の人間ではありません」

『皿を洗うだけだ。お前なら慣れているだろう』

慣れている。その言葉が、昔は鎖だった。ネネッタは湯気の向こうで、自分の両手を見た。ひび割れはようやく治り始めている。

「慣れていることと、引き受けたいことは別です」

『恩知らずめ』

「では、今日から恩の返済も終わりです」

通話を切った直後、屋根から雪の塊が落ち、庇が折れた。白樺の枝がゆっくり伸び、折れ目を包んで元へ戻す。店は誰も責めずに直った。

店を出る前、雪まみれの兄妹が一枚の銅貨を握って入ってきた。匙の精は大きな椀へ二人分をよそい、代金は一杯分だけ受け取った。兄妹が卓へ肘をついた拍子に板が割れたが、白樺の繊維がすぐ隙間を結ぶ。ネネッタは注意しようとして、口を閉じた。壊れても直る店では、子どもが怯えて食べる必要はない。城では皿一枚の欠けにも犯人を探した。ここでは湯気だけが、何事もなかったように上がる。

ネネッタは匙の精へ鍋を任せ、厚い外套を着た。仕事へ向かうためではない。裏山のなだらかな坂へ行くためだ。

小さな橇を抱えて雪へ飛び出す。売上の鐘を背中で聞きながら、彼女は子どものように坂を滑り降りた。