零番列車の自由席

大陸横断列車《零番》には、切符を持たない乗客が一人いた。

車掌マルタの後ろを歩く警備人形R―9である。胸の改札器へ所有切符を通せば、命令者のため何度でも戦う。鉄道会社は彼を備品台帳に載せ、「人員」とは数えなかった。食事も座席も不要という理由で、休止時間さえ時刻表から消されていた。

山岳区間で武装強盗が乗り込んだ夜、支配人は金庫車から所有切符を持ち出した。

「マルタ、臨時所有者になれ。R―9へ乗客ごとの盾を命じろ」

それは客を守る代わりに、彼へ銃弾をすべて受けさせる命令だった。

切符には行先も期限もない。乗車駅は製造工場、降車駅は破壊時と印刷されている。

R―9が胸の蓋を開いた。

「切符を投入してください」

マルタは改札鋏を構えた。

「規則を確認します。行先のない切符は無効です」

「備品に旅客規則を適用するな!」

支配人が怒鳴る。

「この列車に乗っている以上、誰だって乗客です」

鋏が鳴った。

マルタは所有者欄へ自分の検札印を押さず、切符を真ん中から切り落とした。R―9の胸で赤い灯が消え、改札器が一度だけ《無札》と警告する。

「退去命令を」

「出せない。好きな駅で降りて」

強盗の銃口が客室へ向く。

R―9は動かなかった。支配人がわめいても、マルタが叫んでも、もう誰の声も命令にはならない。

やがて彼は自分で非常制動弁を引いた。

列車が急減速し、強盗たちが転倒する。R―9は一発も受けず、床を滑る銃だけを蹴り上げ、全員を荷物網へ縛りつけた。

次の駅で官憲へ引き渡すと、彼はホームへ降りた。

「旅客規則に従い、好きな駅で下車します」

列車は彼を残して発車した。

終点で折り返す朝、マルタが改札に立つと、窓口へ硬貨を置く者がいた。

R―9だった。

「切符を一枚。行先は、あなたの勤務が終わる駅まで」

「警備契約じゃないの?」

「乗客として同行します。危険があれば、助けるかどうかはその都度決めます」

マルタは普通乗車券へ鋏を入れた。

R―9は初めて自分の切符を胸ポケットへしまい、指定された場所ではなく彼女の隣の自由席へ座った。