雷を眠らせる陶器壺

雷雲が出た夜にしか開かない陶器店〈雲焼き〉へ、魔術師ヴェイダが焦げた毛布を抱えてきた。

「今夜泊めてくれる宿が、もうない」

彼女の身体には、落雷術の余りが溜まっている。眠ると指先から勝手に放電し、枕を焼き、壁へ穴を開ける。悪意はなくても、三軒の宿から追い出された。最後の宿では弁償代だけ取られ、廊下で夜を明かした。翌日の討伐に備えて休みたいのに、十日まともに眠っていない。

店主ネッサは棚から、蓋付きの黒い壺を一つ下ろした。表面に稲妻形のひびが走っている。

〈雷寝壺〉です。寝る前に両手で抱えてください。術の余りだけを吸い、朝まで中で眠らせます」

「割れてるじゃない」

「雷の入口です。陶器の傷を、欠陥と決めつけないでください」

店の隅には試し寝台がある。ヴェイダが壺を抱えて横になると、初めは肩を強張らせた。まぶたが落ちた途端、髪から青い火花が弾ける。

火花は寝台へ飛ばず、壺のひびへ吸い込まれた。

ごろごろ、と遠雷のような音が内部で鳴る。壺は温かくなったが、毛布は焦げない。彼女の寝息が深くなるほど、ひびの奥で小さな稲妻が丸くなり、子猫のように身を縮めた。ネッサが水を張った皿を枕元へ置いても、水面は一度も震えなかった。

八分後、ヴェイダが目を開けた。

「朝?」

「まだ八分です」

彼女は信じず窓を見て、それから両手を開いた。掌にまとわりついていた紫電が消えている。わずかな眠りだけで、十日分の頭痛まで引いていた。

「この壺があれば、宿で眠れる」

「朝、蓋を開ければ溜めた雷を一発分だけ戻せます。討伐にも無駄になりません」

ヴェイダは金貨二枚を置いた。値札は一枚だ。ネッサが返そうとすると、彼女は焦げた毛布を丸めて脇へ抱える。

「一枚は壺。もう一枚は、値札に載っていない腕の分。追い出さずに眠れる道具を作った人へ払う」

黒い壺を大事そうに抱え、初めて欠伸をしながら宿探しへ戻っていった。

雷雲の切れ間から月が出る。ネッサが閉店札へ手を伸ばしたとき、真鍮のベルが雷より小さく、けれど確かに鳴った。