青いカーテンの部屋

 小田切皐月が父の引っ越しを手伝ったのは、業者を頼む金がないと聞いたからだった。宗明が選んだ新居は、線路沿いの六畳一間。段ボールを置けば、二人が立つ場所もない。

「カーテン、先に付けるぞ」

「暗くなってからでいい」

「外から丸見えだ」

「見たい奴はいない」

 父は昔から、笑えない冗談で先に傷つく癖がある。家を出たのも、母と別れたのも、全部「仕方ない」で済ませた。皐月が大学を辞めたときだけは、電話で二時間説教した。その矛盾が今も許せない。

 宗明が段ボールから出したカーテンは、色褪せた青だった。雲と飛行機の柄。皐月が小学生の頃、自分の部屋に掛けていたものだ。

「捨ててなかったの」

「布は使える」

「子ども部屋みたいだぞ」

「新しいのは高い」

 二人で突っ張り棒を伸ばした。宗明が椅子に乗り、皐月が支える。窓枠が歪んでいて、棒は何度も落ちた。

「右、あと一センチ」

「上から言うな」

「俺が下だからだろ」

「昔は肩車した」

「覚えてない」

「そうか」

 嘘だった。父の肩は高く、怖くて髪を強く掴んだ。そのとき怒られなかったことまで、皐月は覚えている。

 四度目で棒が固定された。青い布を通すと、部屋の蛍光灯まで水の底のような色になった。線路を電車が通り、カーテンがわずかに膨らむ。

 荷解きを終える前に終電がなくなった。皐月は駅前のホテルを検索したが、宗明は段ボールを二つ廊下へ出し、床を空けた。

「狭いけど寝られる」

「布団、一組しかないだろ」

「二組ある」

 押し入れから出てきた片方は、新品の安い布団だった。宗明は包装を破り、皐月の側へ敷く。枕だけ足りず、畳んだ上着を置いた。

「明日、カーテン買い替えよう」

 皐月が言うと、宗明は青い布を閉めた。

「これはここでいい」

「子どもっぽい」

「夜、帰ってくる場所が分かりやすい」

 電車がもう一度通り、青いカーテンに二人ぶんの影が揺れた。