青い石の持ち主
牧野景子は、瑠璃の胸元に光る青い石を見つけるなり、険しい顔になった。
「それ、どこで手に入れたの?」
「母から譲られました」
「そんな大粒のサファイアを、あなたの実家が持てるはずないでしょう。牧野家の宝石箱から盗ったんじゃないの?」
景子は親戚の集まりの最中に瑠璃のペンダントを外させ、翌日、なじみの高級宝飾店へ鑑定に持ち込んだ。偽物だと証明し、嫁を謝らせるつもりだった。恒一が返すよう求めても、『本物ならなおさら出所を調べるべき』と金庫へ入れた。瑠璃は警察沙汰にせず、鑑定には自分も同行することだけを条件にした。
老鑑定士は石を見た瞬間、手袋を替え、店の扉を施錠した。青い光の内部には、宝生家の鉱山で百年前に発見された証となる星形の内包物が浮かんでいる。鑑定台ではなく、儀礼用の黒布が敷かれ、警備員が入口を固めた。
「こちらを、どなたから?」
「嫁です。怪しい品ですから、遠慮なく偽物だと――」
鑑定士は景子を制し、瑠璃へ深く頭を下げた。
「宝生家の《蒼天》でございますね。次代の継承者がお持ちになる日を、長くお待ちしておりました」
奥の階段から、宝生ジュエリー国際本社の社長と警備責任者が降りてきた。宝生家は鉱山、宝石取引所、世界的ブランドを所有する一族で、《蒼天》はその創業家を示す非売品だった。世界の王侯や著名人が顧客に名を連ねる店でさえ、この石を売買する権限はない。
景子は青ざめながら、自分の指輪を見せた。
「私もこの店の上顧客なのよ。ほら、このダイヤだってこちらで――」
社長は刻印を確認した。
「その指輪は、瑠璃様のご結婚に際して宝生家から牧野家へ贈られた記念品です。代金は頂いておりません」
瑠璃の母が店へ到着し、娘の首に《蒼天》を掛け直した。
「嫌な思いをしたわね。これはあなたのものよ」
景子は急に声を柔らかくした。
「誤解だったの。家族の宝物なら、私が預かってあげても――」
瑠璃は半歩下がった。
社長が金庫の登録端末を差し出す。
「本日付で、宝生家の全コレクション管理権を瑠璃様へ移します」
瑠璃が署名すると、店内の全金庫が新しい所有者名を表示した。
『宝生瑠璃』
景子が盗品と呼んだ青い石は、持ち主を選ぶ家そのものだった。