青い縁を一枚だけ
藤守柚玻の部屋へ、母の食器箱が届いた。
中には白磁の皿が五枚。縁に青い線があり、母は「あなたが家庭を持ったら使いなさい」と揃えていた。葬儀のあと、父が相談もなく送ってきた。
箱の内側には、母の字で〈夫婦二人、子ども二人、お客様一人〉と貼り紙がある。柚玻の未来は五枚の用途まで割り振られていた。割れたときのための予備ではなく、欠けてはいけない家族の人数だった。
一枚を手に取ると、底に柚玻の誕生日が書かれていた。贈り物なのに、開ける時期は母が決めた「いつか」まで封じられていた。
柚玻は五枚すべてを洗い、乾いた布で拭いた。雑に捨てて母へ反抗したいわけではない。丁寧に扱ったうえで、丁寧に自分の暮らしから減らしたかった。
父には、残り四枚の選択期限を夜八時までと伝えた。それを過ぎたら引き取りを変更しない。母の「いつか」と違い、終わる時刻のある約束だった。
柚玻は一枚ずつ新聞紙から出し、狭い台所の床へ並べた。自分の食卓は壁際にあり、椅子は一脚だけだ。
父へ電話する。
「五枚も置けないから、返すね」
「将来、家族が増えたら必要だ」
「増えるかどうかで、今の部屋を倉庫にしない」
父は、母が孫と食卓を囲むのを楽しみにしていたと言った。柚玻は皿の青い線を指でなぞった。母は一人で食べる夕食を「仮の暮らし」と呼び、五人分の未来だけを完成形にした。
「一枚だけ残す。残りはリユースへ出す」
「そろわなくなるぞ」
「そろわなくていい」
電話の向こうで、父が初めて言葉を失った。
柚玻は四枚を箱へ戻し、引き取りサービスの伝票を書いた。父が欲しいなら今日中に連絡してほしいと伝えたが、保管のために再び自分へ送らないことも付け加えた。
夕方、父から〈一枚だけ俺が使う〉とメッセージが来た。
柚玻は一枚を父宛ての箱へ移し、残り三枚を手放した。母の五客は、父と娘の一枚ずつと、知らない誰かの食卓へ分かれる。
夜、柚玻は残した皿にパスタを盛った。五客そろわない食器は不完全なのではない。一人分として、ちょうどよかった。