首輪を外したら軍勢が消えた

「魔力ゼロ。首輪を付ける価値すらない欠陥品だ」

奴隷商は、早乙女蛍の鑑定紙を丸めて荷車の下へ捨てた。

召喚陣から現れた蛍は、勇者候補として売れず、国境市場へ運ばれていた。同じ檻には借金奴隷や獣人の子どもがいる。前世で行政書士だった彼女には、契約書の文字だけが妙に鮮明に読めた。

検問所へ着いたとき、丘から子オークの群れが駆け下りてきた。

小柄な低級魔物だが、百匹近くいる。兵が迎撃しようとすると、子オークたちの首輪が赤く光り、泣きながら速度を上げた。

蛍は奴隷商の帳簿を見た。檻の人々だけではない。襲撃してくる魔物まで「所有物」として登録されている。戦わせ、討伐報奨金と保険金を二重に得る仕組みだった。

群れの後方には、鉄兜をかぶった成体オークがいた。子どもたちを守ろうとして首輪に逆らい、全身から血を流している。

「兵隊、撃て!」

奴隷商が叫ぶ。

蛍は檻の隙間から手を伸ばし、捨てられた鑑定紙を拾った。

「生き物を品目にした契約は、無効です」

彼女は《絶対解約》を一度だけ執行した。

国境市場にあったすべての首輪が、同時に開いた。

檻の鎖、借金奴隷の印、子オークの拘束具、成体オークを縛る命令紋。所有権を根拠にしたものだけが白い紙片となり、空へ舞う。突進していた子オークたちはその場で転び、成体オークが両腕で受け止めた。

奴隷商の荷車と金庫も、他人から不当に奪った品として持ち主の前へ移動する。最後に、彼の爵位証まで紙片となって裂けた。

契約の正当性を測る国境大印が、判定不能の煙を上げて砕ける。

検問所を視察していた公正侯オスカルが、馬上から降り、蛍の檻の前で直立した。

「王法より上位の解約権……いや、権利を元へ戻しただけか」

奴隷商は命令を繰り返したが、もう誰も動かなかった。

成体オークが子どもたちを背に、蛍へ片膝をつく。檻の中の人々も、兵も、役人も、彼女を商品ではなく裁定者として見ていた。

公正侯が檻の扉を自ら開ける。

その瞬間、蛍に道を譲ったのは人間だけではなかった。