駅前では待たない

タクシーの配車センターで、北見律人は雨の駅前にいる女性から電話を受けた。

「車が来たと表示されるのに、見当たりません」

女性は白杖を持ち、足元には大きな荷物がある。配車番号は合っている。運転手も「駅前にいる」と答えている。GPS上では、二人の印はほとんど重なっていた。

律人は互いに動き回らせるのをやめた。

「お客様は、雨の音のほかに何が聞こえますか」

「信号の音と、バスの案内です」

一方の運転手には、目の前にある店名を尋ねた。「駅前食堂」。女性の側には「東口バス乗り場」の放送がある。二人は同じ駅名の、上下二段に分かれた広場にいた。GPSは高さを区別せず、運転手は高架上の一般車乗降場、女性は地上のバスロータリーにいる。

運転手はそのまま一周すればよいと言ったが、雨で渋滞し、到着まで十五分かかる。律人は近くの空車を検索し、地上側にいる一台へ切り替えた。元の車には別の客を割り当て、女性には屋根の下から動かないよう伝えた。

女性には「こちらへ歩いてください」と方角だけを告げず、今いる屋根の柱番号を確認してもらった。運転手にも車から降りて同じ番号まで迎えに行くよう頼んだ。位置を合わせる負担を、雨の中の客だけへ負わせない。配車は車を近づける仕事だが、最後の数メートルは人が埋める。

三分後、運転手が女性の名前を呼ぶ声が電話越しに聞こえた。律人は車体番号を復唱してもらい、別のタクシーに乗り間違えないところまで確認した。

「駅前って、一つじゃないんですね」

女性が笑った。

「地図では一つでも、入口は二つありました」

律人は配車記録に、駅名ではなく「東口地上」と表示する修正依頼を残した。位置の点が合っていても、人が会えるとは限らない。

運転手からも、地上側の柱番号を目印に登録したと返信が来た。

休憩札を立てた瞬間、別の配車番号が画面に出た。

「大型病院の正面です。車も正面にいるそうですが、会えません」

律人はまず、その正面が何階にあるのかを聞いた。