魔導砲の採点不能

「魔力ゼロなら、砲口を光らせることもできん」

砲撃魔法科の教官ドノヴァンは、鷹司晴斗を旧式魔導砲の席へ座らせた。実技課題は、自分の魔力を砲へ流し、百歩先の岩壁に穴を開けること。晴斗の砲だけは博物館行き寸前で、照準器さえ曇っていた。

最新砲を与えられた生徒たちは、旧式砲の隣を通るたび鼻をつまんだ。晴斗だけは錆を拭い、固着した照準輪をゆっくり回して元の位置へ戻した。

彼は前世で機械設計をしていた。魔力はなくても、砲身の奥に幾重もの安全制限が見える。この世界で得た能力は、出力そのものではなく、物に課された上限を外すものだった。

試験開始と同時に、山向こうから警報が届いた。

封印されていた魔将の浮遊要塞が起動し、学院へ照準を合わせたのだ。最新式魔導砲が一斉射撃するが、要塞の黒い壁に弾かれる。跳ね返った光弾が山村へ落ち、遠くで避難鐘が鳴った。要塞の主砲には学院だけでなく、王都まで一直線に焼く魔力が集まっている。教官は試験を捨て、優秀者用の転移門へ自分だけ走った。

晴斗は旧式砲の操作桿へ手を置く。

《能力・制限解除――対象一つに設定された上限を、一度だけ消去する》

「一発だけ借りる」

錆びた砲身が低く鳴った。

晴斗が引き金を引くと、光は爆発ではなく、細い線として伸びた。岩壁を傷つけず、その先の山を透過し、さらに空を渡る。浮遊要塞の中央へ届いた瞬間、黒い城は音も炎も残さず円形に消えた。

雲の穴から青空が見える。

遅れて旧式砲の出力計が回転を始めた。一周、十周、百周。数字板は《採点不能》の文字を吐き出し、自ら砲座から外れて床へ落ちる。砲身は壊れず、長い眠りから覚めた獣のように静かだった。

晴斗は二発目を撃たなかった。操作桿から手を離し、席を立つ。

逃げかけていたドノヴァンは扉の前で凍りついた。軍務卿兼学院理事のレオニダスが観覧席から立ち、晴斗の旧式砲へ敬礼する。

「百歩先の岩壁は無傷です」

軍務卿は、要塞が消えた空を示した。

「よって通常課題は未達。しかし王国防衛試験は、史上最高点で合格とする」

採点不能の札が、最高評価より重く見えた。