鮭の皮を返す

御子柴汀は、石狩鍋から鮭を一切れ取り、皮を上にして皿へ置いた。

友人二人が汀の誕生日を祝う夜だった。蝋燭も贈り物もない代わりに、北海道出身の汀が好きな鍋を用意してくれた。

汀は今日、乳房に見つかった腫瘍の検査結果を受け取った。詳しい検査が必要だと書かれている。まだ病気と決まったわけではない。それでも紙一枚で、来月の旅行も仕事の昇進試験も、遠い話に見えた。

母を同じ病気で亡くしたのは、汀が高校生のころだった。まだ結果も出ていないのに、鏡を見るたび母の入院着を思い出す。友人へ話せば、誕生日のたびにこの不安まで思い出させる気がした。

心配をかけたくなくて、鞄の底へ封筒を隠している。

蓋を取ると、味噌とバターの香りを含んだ湯気が上がった。鮭の身は箸を入れると薄くほどけ、皮だけが弾力を残した。汀は身から先に食べ、皮を皿の端へ寄せた。

昔から皮は最後に食べる。友人の一人が覚えていて、汀の皿を見て笑った。そのいつもどおりの反応に、汀はかえって息が詰まった。来年も同じように笑える保証を、誰かに求めたくなった。

封筒を出せば、誕生日が検査の夜になる。出さなければ、次に会うまで一人で待つことになる。

汀は皮を半分に切った。一方だけを口へ入れ、もう一方を鍋へ戻そうとした。

友人が箸で止めた。食べ残しを戻すな、という顔ではない。小さな保存皿を差し出し、皮をそこへ置かせた。

「持って帰れば」

その一言で、今夜決めなくてもよいものがあると分かった。

汀は検査結果の封筒も、同じように鞄から出した。封はすでに開いている。友人たちは紙を奪わず、保存皿の隣へ置いた。まだ決まっていない未来を、勝手に読み進めない置き方だった。

汀は病名ではなく、次の検査日だけを指で示した。一人が予定表を開き、その日に印をつけた。もう一人は鍋の火を弱めた。

皿に残した鮭の皮は、帰りに包んでもらった。検査結果と一緒に持ち帰ったが、重さは来たときより半分だった。

誕生日は病気の始まりではない。言えないまま一人で待つ時間を終えた日になった。