『赤線の切れた朝』

工場の朝礼で、製造部長は設備事故の責任者を発表した。

「安全確認を怠った整備員を本日付で解雇する。所属班は人員削減の対象とする」

整備員は、警報線が切られていたと訴えた。だが部長は、退職した前任整備員が残した点検表に「異常なし」とあると言った。

安全管理担当が、一つのファイルを掲示板へ映した。前任整備員が退職日に残した「赤線を拡大してください.pdf」。

点検表の配線図には、細い赤線が一本引かれている。拡大すると、警報線の途中に手書きで「封印」と記されていた。

部長は「図面上の注意書きにすぎない」と言った。

ファイルの添付写真では、警報装置の箱に封印シールが貼られていた。撮影日は事故の一週間前。ところが事故後の写真では、シールが切られ、箱が開いている。

「整備員が開けたのだろう」

安全管理担当は工具庫の貸出記録を示した。箱を開ける特殊鍵を借りたのは製造部長。時刻は事故前夜の二十二時十三分だった。

部長は夜間点検をしたと認めた。

「異常があったから確認した。戻すのを整備員に頼んだ」

依頼メールは存在しない。代わりに、前任整備員のファイルから部長の指示書が見つかった。

――翌朝の生産試験中だけ警報を止める。停止実績が出れば設備更新予算を通しやすい。記録には残さないこと。

前任整備員は拒否して退職した。部長は自分で警報線を外し、事故後に整備員の点検漏れへ書き換えたのだ。

点検表の更新時刻は事故翌日の午前六時。部長は「整備員が修正した」と言ったが、その時間、整備員はけがで病院にいた。更新端末は部長室。入室記録も部長だけだった。

朝礼に並ぶ作業員の視線が、一斉に壇上へ向いた。

本社の安全責任者が解雇通知を破いた。

「整備員の解雇と班の削減を撤回します」

部長がマイクを握り直した。

「工場の判断は私が――」

安全責任者は特殊鍵を部長の手から取り上げた。

「今朝、判断を覆されるのはあなたの職位です」

整備員の胸に、事故対策班長の腕章が渡された。