『存在しない課題サイト』

新卒採用の最終面接で、薬師寺沙月は盗用を疑われていた。課題として提出した「通学路見守りアプリ」の企画が、別の候補者のものと一致したからだ。

面接官の芦川征一は資料を机に置いた。

「小湊花さんは、一週間前に同じ企画を提出しています。あなたは公開サイトで参考にしたそうですね」

沙月は首をかしげた。

「そんなサイトは見ていません」

芦川は印刷した申告書を示した。沙月の署名付きで、「類似企画をウェブ上で閲覧した」とある。

「これは私の署名ではありません」

「往生際が悪い」

隣の人事課長が言った。

沙月は面接案内メールを開き、課題提出先のリンクを見せた。自分がアップロードしたのは九日前。システムの記録では、小湊の提出は七日前だった。

芦川は平然と答える。

「小湊さんは事前相談で私へ送っていた。正式提出が遅かっただけです」

「では、その事前相談のメールを見せてください」

人事課長が検索すると、メールは見つからない。代わりに、芦川が沙月の提出ファイルを開いた二時間後、小湊へ「参考資料」として転送した履歴が出た。小湊版に残った誤字は沙月が提出後すぐ直した箇所で、転送された旧版からしか写せなかった。芦川が示した『公開サイト』のURLは、作成された当日から一度も外部公開されていない社内仮ページだった。CCは空欄だったが、監査用の自動控えが残っていた。

芦川の頬が引きつる。

「候補者間の公平性を保つため、一般例として共有した」

「一般例なら、なぜ小湊さんの面接予約だけ、その直後に四十分延長したんですか」

会議室予約の変更履歴には、芦川が小湊と個別に企画を仕上げた記録があった。沙月の偽の申告書を作成した端末も、芦川の社員番号でログインされている。

人事課長は沙月の不採用票を破り、芦川から面接官バッジを外させた。

「薬師寺さんを内定候補へ戻します。盗用した候補者と、盗用を助けた面接官の選考参加資格は取り消します」