ごめんの年齢

針生塔子の前に、死んだ弟の類が立っていた。

二十四歳で亡くなったはずなのに、今夜の類は二十三歳に見えた。

「遅くなって、ごめん」

塔子が言うと、類の背が少し縮んだ。

顔つきが若くなる。

「今ので一歳」

「何が」

「姉ちゃんが謝るたび、俺が若返る」

類は面白そうに笑った。

塔子は、弟の遺品を受け取るため、彼のアパートへ来ていた。

終電を逃し、空の部屋で朝を待っていると、類が現れたのだ。

「病院に間に合わなくて、ごめん」

二十二歳。

「電話に出なくて、ごめん」

二十一歳。

「最後のメッセージ、既読にしなくて、ごめん」

二十歳。

類は大学生になり、高校生になった。

髪が短くなり、頬が丸くなる。

塔子は止められなかった。

両親が離婚したとき、塔子は母と暮らし、類は父のもとに残った。

姉だから一緒に連れていくべきだったと思った。

進学を手伝えなかった。

就職祝いを忘れた。

借金の相談を「自分で何とかして」と切った。

謝るたび、類は子どもに戻っていく。

「ごめん。ごめんね」

十二歳。

「ひとりにして」

九歳。

「守れなくて」

六歳。

類は床に足が届かなくなり、段ボールの上へ座った。

「まだある?」

幼い声で尋ねる。

塔子は口を押さえた。

このまま謝れば、弟は赤ん坊になり、やがて消える。

言わなければならない謝罪は、まだいくらでもあった。

姉として足りなかったことを数えれば、一夜では終わらない。

「姉ちゃん、昔から謝るの好きだね」

「好きなわけない」

「謝ると、相手より下に行けるから楽なんだよ」

「何それ」

「許すかどうか、俺に押しつけられる」

六歳の類は、生意気に脚を組もうとして失敗した。

塔子は泣きながら笑った。

「じゃあ、何て言えばいいの」

「知らない。俺、六歳だし」

窓の外が少し明るくなる。

塔子は考えた。

両親が喧嘩した夜、類が布団へ潜り込んできたこと。

弁当の卵焼きを交換したこと。

塔子の結婚式で、誰より泣いたこと。

「一緒にいてくれて、ありがとう」

類は若返らなかった。

「電話してくれて、ありがとう」

そのまま。

「私の弟でいてくれて、ありがとう」

六歳の類が笑った。

姿は戻らなかったが、その笑い方だけは二十四歳の弟と同じだった。

「小さくしすぎたね」

「姉ちゃんの中では、昔からこれくらいだろ」

「生意気」

「姉ちゃんより先に大人になった」

朝日が部屋へ差す。

類は薄くなった。

塔子は「ごめん」と言いかけ、飲み込んだ。

代わりに言った。

「またね」

「それ、約束?」

「願い」

類はうなずいて消えた。

塔子は弟の携帯を充電し、最後のメッセージを開いた。

《姉ちゃん、今までありがと》

既読の印がついた。

塔子は返事を書かなかった。

もう届かないからではなく、今夜きちんと返したからだった。