その冤罪、染み抜きします
ギルド洗濯場の染み抜き係ラトゥカは、冒険者の服から何でも落とした。
竜血、毒泥、呪詛の墨。ただし、布そのものの色は残す。それが職人の腕だった。
技能の文言も、その原則を示している。
【染み抜き:対象の価値を損なう染着物だけを選別し、除去する。】
ある朝、ラトゥカの身分板に赤い文字が浮かんだ。
《聖宝窃盗犯》
ギルドの聖宝が消え、保管庫の記録には彼女の入室印が残っていた。さらに魂へ直接刻まれる身分板まで罪を示している。裁判長は証拠十分として、その日のうちに追放刑を宣告した。
広場で、ギルド長の息子が薄く笑っていた。
昨夜、洗濯場へ泥だらけの外套を持ち込んだ人物だ。袖には保管庫の封印蝋がついていたが、ラトゥカが尋ねる前に奪い返していった。
「最後に言うことは」と裁判長が聞く。
ラトゥカは自分の胸に浮かぶ赤い罪名を見た。
文字の端が、布についた偽装染料と同じにじみ方をしている。魂の色ではない。誰かが身分板の価値を損なうため、上から染めつけた汚名だ。
「一つだけ、仕事をさせてください」
彼女は染み抜き布を自分の胸へ当てた。
ギルド長の息子が「止めろ」と叫ぶ。
遅かった。
一度たたくと、《窃盗犯》の赤が薄れる。二度目で入室記録が剥がれ、偽造に使われた魔力の糸が露出した。三度目、罪名は丸ごと布へ移った。
下から現れた本来の身分表示は《聖宝保全協力者》。
同時に、抜き取られた赤い染料が布の上で紋章を結んだ。ギルド長の家だけが使える私印だった。
広場の視線が息子へ向く。
彼の外套を調べると、裏地から聖宝が落ちた。ラトゥカに罪を着せ、売却までの時間を稼ぐつもりだったのだ。
裁判長は追放状を破り、傍聴席へ向けて無罪を宣言した。今度は息子の拘束命令へ署名する。
ラトゥカは赤く染まった布を証拠袋へ入れる。無実を叫ぶ必要はなかった。落とした染みと、残った地の色がすべて語っている。
彼女の身分板は白く輝き、洗濯場の片隅に押し込まれていた職名を公職へ改めた。
【職業「染み抜き係」が上位職「名誉洗浄官」へ書き換えられました】