ねじ皿の修理神
古い電器修理店を、娘は閉めようとしていた。
店主の父は目が悪くなり、細いねじを何度も落とす。
それでも、
「まだ直せる」
と言って作業台を譲らない。
ある夜、ねじ皿の中に、指先ほどの神様が座っていた。
腰へ小さなドライバーを差している。
「壊れた物に関わる者が、自分で壊した部分を一つ認めるたび、ねじを一本締めてやる」
修理神はそう言った。
ちょうど、古いカセットデッキが持ち込まれていた。
父と娘が昔、店の宣伝歌を録音した機械だ。
娘は閉店前に直し、記念に残したいと思っていた。
父が蓋を開ける。
修理神は動かない。
「経年劣化だ」
父が言う。
「自分で壊した部分じゃない」
娘は、
「私が子どもの頃、ボタンを乱暴に押した」
と認めた。
神様がねじを一本締めた。
父は黙った。
娘は続けた。
「店を継いだのに、数字が悪くなるたび、お父さんの古いやり方のせいにした」
二本目が締まる。
父はようやく言った。
「お前の提案を、若いから分からんと何度も退けた」
三本目。
二人は、機械ではなく店について話し始めた。
父は客の名前を覚えているが、帳簿をつけない。
娘は効率を上げるため、相談の時間を短くした。
互いに相手が店を壊していると思っていた。
ねじが一本ずつ締まる。
だが最後の一本だけ、神様は回さない。
「まだある」
父が言った。
「目が悪いことを隠して、直したふりをした品がある」
娘の顔が変わる。
事故になる前に、店を閉めたい本当の理由だった。
「なぜ言わなかったの」
「役目を取られると思った」
娘は修理神へではなく、父へ答えた。
「全部取るつもりはない。でも、電気を扱う修理はもう任せられない」
父は長く黙り、
「それでいい」
と言った。
最後のねじが締まり、カセットデッキが動いた。
流れたのは、幼い娘の歌ではない。
録音に失敗した空白と、父の笑い声だけだった。
二人は顔を見合わせて笑った。
店は閉めなかった。
電気修理をやめ、木製品や玩具の簡単な修繕と、相談の受け付けだけにした。
娘が安全を確認し、父は客の話を聞く。
修理神はねじ皿から消えた。
壊れた物は、謝れば元通りになるわけではない。
それでも、誰がどこを壊したか認めれば、別の形で使い続けるためのねじ穴が見つかることがあった。