ふたりの名字の表札

御厨紅と梢が同棲する部屋の申込書には、「続柄」を書く欄があった。

友人、と書けば簡単だった。

二人は三年付き合っている。今は別々の部屋に住み、週末を行き来している。梢が同棲を提案し、ようやく見つけたのが、日当たりのよい小さな二DKだった。

審査の確認電話は、紅のスマートフォンにかかってきた。

「もうお一人の方とは、ご姉妹でしょうか」

担当者の声は事務的だった。

机には二種類の表札見本がある。一枚は〈御厨〉だけ。もう一枚は〈御厨/藤枝〉と二人の名字を並べたもの。前者なら説明は少なくて済む。梢の郵便物も部屋番号さえ合えば届くだろう。

二十九歳になり、紅は「わざわざ言わない」技術ばかり上手くなった。友人の集まりでは恋人の話をせず、店で二人を姉妹と間違われても笑って流した。暮らす場所くらい、波風なく手に入れたいと思う。

けれど、同棲を始める申込書でまで梢を曖昧にすれば、二人の住所は最初から隠し事になる。

「姉妹ではありません。交際しているパートナーです。二人で住みます」

電話の向こうで、紙をめくる音がした。

「確認して折り返します」

通話が切れた。正直に言ったせいで審査に落ちる可能性もある。梢に相談せず答えたことを、勝手だと怒られるかもしれない。

紅は二枚の表札を見比べ、名字を二つ並べた方へ発注を入れた。部屋が借りられなければ、この表札は使えない。それでも注文を取り消さなかった。

数分後、梢から〈電話どうだった?〉と届いた。

〈私たちのことをそのまま言った。だめになるかもしれない〉

梢からは、しばらくして〈怖い。でも言ってくれてありがとう。次は二人で答えよう〉と届いた。紅は安堵しながら、相談せずに名乗った自分の乱暴さも認めた。隠さないことと、相手の分まで勝手に語ることは違う。新しい部屋では、その違いを何度も話すことになるだろう。

送信して、紅は折り返しを待った。選んだのは部屋ではない。借りられない結果まで含めて、二人の名字を並べることだった。