ゲームの終了音

相沢の隣室からは、深夜になるとゲームの音が聞こえる。

 激しい音ではない。コントローラーの細かなクリック、短い効果音、時々低く回る本体のファン。そして午前三時ごろ、決まって一度だけ鳴る終了音。

 相沢も以前は、毎晩オンラインゲームをしていた。

 大学時代の友人たちとボイスチャットをつなぎ、仕事の愚痴を言いながら同じステージを回った。けれど転職して生活時間がずれ、参加できない日が増えた。久しぶりに入ると、知らないメンバーと知らない話題が増えていた。誘われなくなったわけではない。ただ、自分から「今日はやめとく」と言う回数が多くなった。

 今夜、グループには四人が接続中だった。

 相沢は参加ボタンを押さず、暗い画面を見ていた。窓へ雨が当たり、エアコンの風向板が上下する。壁の向こうでは、同じ敵と何度も戦っているらしく、似た効果音が繰り返された。

 一時半、二時、二時半。

 隣のクリックは止まらない。誰かと遊んでいるのか、一人で進めているのかは分からない。その分からなさが、相沢には少し楽だった。

 友人の一人から『まだ起きてる?』と個別メッセージが来た。相沢は既読をつけず、通知を横へ払った。返したくないのではない。今返すと、元気な声を作って参加してしまいそうだった。誘いを残したまま休むことも、関係の終わりではない。ゲームを起動し、オンライン表示をオフにした。

 共同プレイではなく、長く放置していた一人用の練習モードを選ぶ。最初の操作を忘れ、何度も壁へぶつかった。音量は一番小さくした。向こうのクリックとこちらのクリックが、壁の両側で別々の速さを刻む。

 三時少し前、グループの接続人数が三人になった。誰が抜けたのかは見なかった。

 相沢は一つだけステージを終えた。得点は低く、報酬もほとんどない。それでも終了画面の音は、昔と同じだった。

 ほぼ同時に、隣室からも決まった終了音が鳴った。

 向こうで椅子が動き、水道が流れる。相沢は友人たちへ挨拶を送らず、そのままゲームを閉じた。明日また参加したくなればすればいい。今夜は誰の予定にも合わせず、自分の一回だけで終われた。

 ファンの回転が静まり、雨だけになった部屋で、相沢はイヤホンを外した。