フォーク一本の夕食
茉白はレジで、割り箸を断った。
買ったのはカルボナーラとカップ入りの果物。どちらもフォークで食べられる。洗い物を増やさず、ゴミも少なく。そう考えていたのに、家に着いて袋を開けると、店員が入れてくれたフォークは一本だけだった。
当然のことなのに、茉白は少し困った。
パスタを食べたあとのフォークで、甘いパイナップルを刺す。ソースが残っていたら嫌だ。でも新しいスプーンを出せば洗い物になる。疲れている夜ほど、こんな小さな選択が面倒になる。
今日は在宅勤務だった。朝から一歩も外へ出ず、画面の中の人たちと九時間話した。退勤ボタンを押したあとも、部屋は同じ明るさ、同じ椅子、同じ空気だった。夕食を買いに出た十五分だけが、仕事と夜の境目になった。
カルボナーラを温め、机のノートパソコンを閉じる。閉じただけでは仕事の書類が視界に残るので、その上にレシートを置いた。午後八時五十八分。外へ出た証拠のような時刻だった。
パスタは濃く、途中で少し飽きた。茉白は全部食べきろうとしたが、二口分を残した。フォークをティッシュで拭き、果物のふたを開ける。完全にはきれいにならず、最初のパイナップルに黒胡椒が一粒ついた。
口に入れると、甘さのあとに少しだけ胡椒が香った。思っていたほど変ではない。
一つの道具をきれいに使い分けなくても、味はどうにか続いていく。仕事と生活も、本当はくっきり分けられないのかもしれない。
会社の通知が一件届いたが、茉白はノートパソコンの上のレシートを見た。退勤後に買った夕食を食べている時間まで、会社へ渡す必要はない。
残したパスタの容器にふたをし、冷蔵庫へ入れる。明日食べるか、捨てるかは明日決める。
今夜はフォーク一本で足りた。少し胡椒味のパイナップルも、ちゃんと甘かった。
レシートの下で、ノートパソコンは静かなままだった。茉白はフォークを洗わず、果物の空容器へ入れて捨てる。使い切って手放せるものが一つあるだけで、仕事の残りまで抱えて眠らなくていい気がした。