ベッドの下の赤いランプ

 ベッドの下で、赤いランプが同じ場所を行き来していた。

 新田のロボット掃除機が、充電台へ戻れずにいる。低いモーター音が近づき、脚へぶつかり、向きを変え、また同じ脚へ戻る。ごつ、ごつ。スマートフォンには「経路を確認してください」と表示されていた。

 午前一時を過ぎていた。

 新田は眠るつもりで照明を消したのに、友人の投稿を見続けてしまった。海外旅行、婚約指輪、新しい部屋。画面を下へ送るたび、他人の一日が明るく並び、自分の部屋では掃除機だけが迷っている。

 ごつ。回転。赤い光。

 止めればいいのに、新田はしばらく見ていた。自分も同じ場所へ戻っている気がして、少し可笑しく、少し腹が立った。

 廊下でエレベーターが止まった。扉が開き、誰かの足音が近づく。買い物袋が鳴り、向かいの部屋の鍵が回った。

「ただいま」

 女性らしい声が小さく言った。返事は聞こえなかった。ペットへか、自分へか、空の部屋へか分からない。扉が閉まり、すぐ室内の換気扇が回り始めた。

 新田の掃除機はまた、同じ脚へぶつかった。

 誰も見ていない部屋へ「ただいま」と言う人がいる。寂しさを消す呪文ではなく、帰宅を終えるための一言なのだろう。

 新田はこれまで、返事がない言葉をむなしいと思っていた。けれど玄関で靴を脱ぎ、照明をつけ、今日を室内へ持ち込むためなら、聞き手がいなくても役目はある。声にしなくても、鍵を置く音や鞄を下ろす音が同じ働きをする夜もある。

 新田は床へしゃがみ、ベッドの下から掃除機を引き出した。絡んでいた充電ケーブルを外し、進行方向を充電台へ向ける。機械は少し迷ったあと、白い台へ収まった。モーターが止まり、赤い光が緑へ変わる。

 スマートフォンも伏せた。友人たちの明るい日々は、消さなくても朝までそこにある。

 充電台の緑は、機械が正しい場所へ戻ったことだけを示していた。きれいに掃除できたか、遠回りしたかは責めない。新田はその単純さを少し羨ましく思い、すぐ笑った。人間の帰宅にも完了ランプがあれば便利だが、なくても布団へ入ることはできる。

 新田は声に出さず、布団へ戻った。迷った機械を一度だけ家へ返せたなら、自分の夜まで正しい経路に乗せなくてもいい。返事のない部屋で、一人分の「帰った」を終えて眠れそうだった。